《１７１》 ページ26
「あかとくろのおにーちゃん！だいじょうぶ…！？」
言葉を言い終わらせぬうちに大人達を制圧すれば、私は急いで男の子の所へ駆け寄る。
不安げに声をかけても反応は無く、その顔を覗き込もうと伏した体に手を伸ばした時、男の子の体が微かに震えているのに気づいた。
裏社会で生きている人間にとってこのような事態など日常茶飯事で、それは幼い私も例外ではない。
けれど男の子はこうしたスラム街で生きてきたと言ってもやはり一般人。
初めての光景に驚きや恐怖が勝ってもおかしくは無いだろうと考えれば、その場で震える体が在ってもおかしくは無いと1人納得した。
「…あの、おにーちゃん…っ？」
「触るな」
止めていた手を再び男の子の体へ触れさせた時、軽い音が空間に響けば感じるのはヒリヒリとした痛み。
唖然とする私の視界にようやく男の子の表情が映ると、私は思わず呼吸が早くなるのを感じた。
歪められた表情から語られるものは、怒りそのもの。
しかしその怒りの矛先が何に向けられているものなのか分からない私は再び男の子へ手を伸ばすも、再び拒まれた手は力無く垂れている。
「…お前は、俺なんか居なくても、クソみてぇに強いんだな」
私はしっかりと男の子を見つめているはずなのに視線が交わらないのは、当たり前だけれど男の子が私を見ていないから。
虚ろな瞳は彷徨うように行ったり来たりと忙しなく動いているけれど、噛み締めた唇と拳はその場で震え続けたまま。
「ね、…おにいちゃん……わたし、っ」
「俺は！！！」
私の言葉を遮るように被せられた男の子の叫び。
男の子からは聞いたことのない、ましてや想像すらしていなかった初めての声量に思わず肩を震わせると、次第に視界が歪むのを感じる。
「……兄貴として…俺が、お前を守ってやりたかったんだ…」
—————情けねえ。
耳に届いた掠れ声は空耳ではないかと疑いたくなるほどに小さかった。
その声を更に掻き消すようにして伸ばされた男の子の腕は、私の小さな体を強く抱きしめていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
