《１６５》 ページ20
《XANXUS side》
約束の10時を過ぎた頃、女は再び俺の前に現れた。
辺りにはきっとその小さな手で抱えていただろう菓子を転がせて、目にはじんわりと涙を浮かべている。
久しぶりなだけだというのに、その姿を見ればたちまち込み上げてくる何かを感じながらも、俺は平静を装う。
「…何やってんだ？」
「…、っにぃちゃん…！！」
僅かに腕の中に残っていた菓子の箱は軽い音を立てて床に散らばる。
そんなものはこの女には視界にな入っていないのか、一目散に俺の元へ来るなり小さな手は俺を目掛け、真っ直ぐ伸びていた。
体にかかる圧を感じると同時に香る少し甘い香りと、目の前に広がる女の可憐な顔に、平静を装っていたのも束の間に俺は思わず動揺を浮かべる。
「おい、何してんだよ、離れろッ…」
「やだもん、ぜったいはなれないもん！」
俺がその体を剥がそうとすればする程に強まる圧。
こんな小さな女なんかに鼓動を速められているという事に羞恥を覚えながらも、収まることを知らない俺の心臓はますます速さを増していく。
「いい加減はな…」
「さみしかったよぉ…」
「………、は？」
微かに耳に届いた女の言葉。聞き間違いで無ければ、この女は寂しかったと言ったのだろうか。
その言葉が俺に向けられた物なのか、言葉の真意を問えば、女は難しいと言いたげな顔で俺を見つめる。
こんなことをまさか俺が聞くなんて酷く癪ではあるが、そんなプライドなんかよりも、勝るのは知りたいという好奇心。
「…その、寂しかったっつうのは…俺に会えなかったからか？」
「うん、そうだよ…？あかとくろのおにーちゃんにあえなくて、ずーっとさみしかったの…」
当然のように考える事なく返ってた答えと、同時に再び感じる体への圧力に、目頭が熱を帯びるのを感じる。
—————会いたかった。寂しかった。
それは俺だって同じだと、どうにも上手く伝えられない俺は、小さな体を抱きしめ返す事で精一杯だった。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
