《１５６》 ページ11
「出かけるっつーから準備してたのに、迎えにきたら部屋にも何処にも居ねえ。
親父らもどこに行ったか知らねえなんて言われちゃ、Aに何かあったと思うだろぉ！？連れ去られたとか、事故ったんじゃねえかとか…ッ！」
「おにーちゃ、…っごめんなさい…」
不安で堪らなかった。
その一言でどれだけ兄が私の身を案じてくれていたのかがわかる。
しかし私の罪悪感を募らせるのはその言葉だけでは足らず、小刻みに震えながらもきつく私の体を抱く腕や、額や体全身から滲む汗。
ほんの1時間程の外出は私にとっては男の子と過ごす束の間の時間でも、兄にとっては酷く長い時間だったのだろう。
「うー…っ」
「ちょ、な、何でAが泣くんだぁ！」
気づけば私の瞳には涙が滲んで来て、堪えようと顔を顰めれば逆に溢れるばかりだった。
その姿に怒りを露わにしていた兄の顔もおろおろとするような戸惑いを見せ、次いで泣くなと慌てて宥めようとして忙しない。
そう簡単に涙が止まってくれれば兄も楽だろうが、慰められればその分涙は私の顔をぐちゃぐちゃにした。
「だあああっ！！泣くんじゃねぇ！ほら！なぁ！？」
自身の服の袖で涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった私の顔を、少し乱雑に拭う兄。
伸びる鼻水になど目をくれることなく拭き取れば、ポケットを探るなり取り出した1つのキャンディを私の前に差し出した。
突然の目の前のキャンディに、思わず瞬きを繰り返す私に早く受け取れと催促するようにずいっと押し付けられる。
「兄ちゃんが後で食おうと思ってたやつをあげんだから、もう泣くんじゃねえ。わかったかぁ？」
「…うん、泣いてごめんなさい…」
「ゔおぉい…こういう時は、ごめんなさいじゃなくてありがとうだろぉ」
むにっと引っ張られる頬は、顔を上げればすぐに離される。
余韻のようにほんの少しだけ感じる微かな痛みは、次に言葉を発そうと思った頃には何もなかったように消えていく。
歯を見せ私に笑みを向ける兄に釣られて私も目を細めれば、瞳の中に微かに残っていた涙が一粒、頬を伝った。
「へへっ…ありがとう、お兄ちゃん！」
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
