《１０５》 ページ9
「…ンだよ情けねぇ自分ったぁ…そんな事のために俺のこと避けてやがったのかぁ」
「うー…ご、ごめん…なさい」
あんなに弱々しかった兄もいつの間にか元通り。っていうほど自信に満ちているわけではないけれど、先程よりは幾分か覇気のある顔になっていた。
一週間ぶりにまじまじと見る兄は少しやつれただろうか、顔色も悪いように見える。
元々筋肉はしっかりとありつつ細身の体型ではあったけれど、私の知る兄よりは明らかに細い。
寄りかかる肩は以前より骨張っていて硬く、絡む手もやはり筋が浮いていて急激に痩せたことが伺えれば、少し胸が痛むのを感じた。
「…お兄ちゃん、痩せたね」
その肩にぐりぐりと頭を押しつければやめろと剥がされる。
次いで頬を摘みながら兄は私を見据えて言った。
「誰のせいだと思ってんだぁ。この一週間、Aが避け続けるおかげで悩みまくって飯も食えねぇ寝れやしねぇ。どう落とし前つけんだ、あぁ？」
「おにーひゃん…いひゃいっへ…」
私の制止を無視するのはもう予想通りと言えるだろう。
以前同じようなことがあったななんて思いながら黙って頬を弄られている私は今きっと、相当間抜けな顔をしているはずだ。
それでも、やめてなんて言いながらも内心は兄に触れられていることに嬉しがっている自分もいた。
こうして兄と戯れる時間がこの一週間、どれほど恋しかったことか。
しかしこういう時に限って邪魔は入るもので、私の憩いの時間は部屋のノックで終わりを呼ぶ。部屋の外から兄を呼ぶのは、女の声。
「…チッ、何の用だぁ」
外に出てきて欲しいという声を聞いて気怠げに体を動かす兄は、仕方ないと言って扉へ歩みを進める。
行かないでなんて言える訳もなく私は黙ってその姿を見ていることしかできない。
扉を開ければ視界に入る、ここ最近では見慣れたその姿に胸を撫で下ろしたのも束の間。
「スクアーロ様…っ！」
女は私の存在に気づくこともなく、兄の胸へと飛び込んだ。
一瞬にしてザワつく胸。その姿を目にした私はその場を動けなかった。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
