《１０３》 ページ7
「XANXUS、悪ぃがA借りてくぜぇ」
やらかしたと思った。部屋を出て行ったはずの兄は普通にこちらを向いていて、待っていましたと言わんばかりの顔で私に近寄ってくる。
そのまま腕を掴むなり歩き出す兄は私を見ることもしない。
ボスに助けを求めても知らん顔をするもんだから、薄情者だと顔で訴えた。
扉を蹴り開け出た先を進む廊下では、兄の気迫にすれ違う隊員は怯えている。
同じようにしてすれ違ったキャバッローネの使用人達は兄に腕を掴まれる私に対し、妬みの混じった嫌悪の顔で見てくるものだから馬鹿馬鹿しい。
「ねぇ！離してよ！お兄ちゃっ…」
「うるせぇ」
その一言で伝わる兄の怒り。
普段はもっと声を張り上げ、結果笑いを誘ったり呆れられたりするような怒り方なのに。
それとは真逆の、静かに一言で黙らされれば、たとえそれが兄であっても私は体を強張らせずにはいられなかった。
掴む手を振り払おうにもその力は凄まじく、私が敵うはずなどない。
私のペースなど気にすることなく先を進む兄についていくのはやっとで、何度もその速さに足をつまづかせながらも堪えていた。
部屋に着くなり放り投げるように私を部屋へと押し込めば、今度は乱雑に扉が閉められる。
明かりを灯さない部屋は薄暗くそれがまた兄の怒りと相性が良いのか悪いのか。
「…なに？これでもまだリハビリ明けなんだけど」
「うるせぇ。テメェには聞きてぇことが山ほどあんだぁ」
「私は答えることは何もないのに？」
どうしてこうも、兄の前では意地を張ってしまうのか。
ボスの前だとあんなに自分の情け無さだって素直に話せるというのに、兄を前にすると意地っ張りが主張してくる。
勝手にしろと言われ思わず飛び出してしまったことを後悔する訳ではないけれど、もう少し自分の中で整理をした上で話をしたかったという気持ちも捨てきれない。
睨む目は同じようにして私を睨む目と絡まり、部屋には主に兄の殺気とも言える気迫が充満している。
「悪いけど、私暇じゃないんだ。ボスの仕事の手伝いあるから」
「ッ、！テメェなぁ！」
話せば話すほどに憎まれ口を叩いてしまう自分の口なんて、塞がってしまえばいいのに。
部屋を出て行こうとするや否や視界が反転し、背中に感じる少し冷たい感覚。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
