《１４５》 ページ49
あの頃から何も変わりやしねぇ。
それはもう二度と来ることはねぇと思っていた地に着いた時、一番初めに思ったことだ。
何年振り以上のその場は、思った以上にあの頃と何も変わり映えのない風景が広がっていた。
まさかこんな所に部下を連れてくるなど正直自分が一番驚きでもあったが、Aとじゃなけりゃ本当に二度と訪れることはなかっただろうとすら思う。
見慣れない土地に困惑の表情を浮かべるAへここがどこかを伝えれば、あからさまに表情を曇らせやがるからむかついて頬を軽くはたいてやった。
俺の補佐だというのに、不意の小さな攻撃にしょうもねぇ声を出しやがって、それがまたAらしくも思ってしまったら、途端に漏れた笑いにAも釣られて笑う。
やはりこいつには、このあどけない笑顔が似合うと、口にはしてやらねえが素直にそう思ったのは事実だ。
「……いい加減、思い出せ」
つい先程自分が軽く叩いた頬を今度はゆっくり撫でながらそう告げると、Aはまた眉を下げ、素直にわからないと、困惑した表情を浮かべている。
何のことかと問いても俺が何も言わずしばらくはAを見据えていると、次第に不安を見せ始める姿に俺は鼻を鳴らす。
「行くぞ」
「ま、待ってボス…！」
有無を聞く前に歩き出せば、慌てた様子で俺の後を追うA。
無意識にもこんなことを口走ってしまうのも、何の気も無しにこの地に降り立ってしまったのも、正直自分でも理由がない。
それだけに思い出せだとか、そんなこと言うつもりがなかったからこそ聞かれると少し面倒だ。
あんなに昔のことで、俺はあの頃から随分変わったのもある。忘れてても仕方ねぇとすら思っていた。
「待ってってばボス…っ！！」
「…何だ」
話から逃げるようにAのペースを気にせず先を進んでいると、不意に腕を掴まれ動きを阻まれる。
その行為に舌を鳴らすと、普段は申し訳なさそうに眉を下げるAも、今回ばかりは顔色を変える事なく俺を見ていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
