《１４３》 ページ47
「てめぇらはここで待ってろ」
ボスが運転手達にそう告げると、揃った返事が間髪入れずにかえってくる。
次いで私の方へ振り向くなり手を差し出したボスはゆるりと口元を緩め、珍しく微笑んでいるようにも見える。
「…来い、A」
普段見せぬその笑みに思わず心臓が大きく脈打つのを感じながらも、差し出された手を取れば体はぐっとボスの方へ引かれる。
突然のことに蹌踉めく体はボスのがっしりとした腕に包まれ、それがまた恥ずかしくて脈は速くなるのを感じた。
私の体に帯びる熱をボスは気づいているだろう。
不意に上げた顔のすぐ先には私を見据えて離さないその赤い瞳に吸い込まれそうなのに、目は離せなかった。
「そんなに見てんじゃねぇよ」
「あ、ご、めんなさい…綺麗だったから、つい…」
すぐ近くにあるボスの顔。昔9代目に付けられたというこの古傷は、ボス自身気に食わないと言っていたけれど、私は嫌いじゃない。
その傷に触れれば少し眉を顰め険しい表情を浮かべていたけれど、存在に肯定を示せばそうかとだけ呟き、ボスはされるがままだった。
「ボスの傷ができる前のお顔、絶対綺麗だったんでしょうけど…私は、今のボスのお顔も綺麗でかっこよくて大好きです」
「……勝手に言ってろ」
まるで子供が不貞腐れるかのように逸らされた顔に私は小さく笑いを漏らすと、ボスは笑うなと言いたげな目で私を睨む。
それがまた堪らず可笑しくてつい笑いが続けて溢れれば、今度は舌を鳴らしていた。
「ボスっ！ごめんなさい、怒らないでくださいよ」
いつだったか、兄に迂闊に抱きつくなとキツく言い渡されそれを守ってきていたというのに、私は無意識にボスの腕に自身の腕を絡め抱きついていた。
ボスは私を拒みはせず、そのままされるがままに歩みを進める。
初めてのプライベートでのボスと2人だけの時間。これからどこに行くのかと、胸を高鳴らせる自分がいるのを密かに感じていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
