《１４０》 ページ44
「…ったく、もう二度とすんじゃねぇぞぉ」
弾かれた指は軽い音を立てて私の額へ当たり、微かな痛みに私は額をさすった。
ごめんなさいと、自分のした行為に対して小さく詫びを入れれば兄は溜息をつきながら私の頭を撫でる。
「…つーか、XANXUSも最初から見てたんなら止めりゃいいじゃだろうがぁ…」
「あ？別に最初から見てたわけじゃねぇよ」
「え！？」
ボスの言葉に私と兄の視線はぐっとボスへ集まる。
最初から見てたわけでもないならなんだってあの流れを把握していたのか。
問えばボスは「少し聞きゃ予想がつく」と言っていて、その判断力の素早さに私は驚きを隠せなかった。
兄はもうそんなボスを見慣れていたのか、妙に納得したような顔で席を立つ。
「手当も済んだし俺は部屋に戻るが…Aはどうすんだぁ？」
「あー…私は、どうしようかな…」
私自身も別にここに残る理由はない。
チラリとボスの顔を見れば、その赤い瞳が私を見据えていて目があった。
一瞬だけなのに、その吸い込まれそうな瞳を見たら思わず残ると口から溢れ、兄はわかったとして部屋を出て行った。
残された部屋には当たり前だけどボスと私。静かな沈黙が数分訪れた後、ボスはその席を立った。
「行くぞ」
「え？えっどこにですか？」
ボスの言葉に素直に疑問を示しても、ボスは口を開かない。
何も言わずに一歩、また一歩と歩みを進めてしまうもんだから、私は慌てて部屋を出て追いかける。
続く廊下もボスは何も言葉を発さず黙って歩く。
時折私が遅れる気配を感じ取ってくれていたのか、何度か立ち止まっては振り返り、私が追いつくのを待ってくれていた。
「乗れ」
「あ、はっはい！」
一体いつの間に用意をしていたのか、門前に停車された車は当たり前に私たちを出迎えた。
てっきりボスの部屋に行くとばかり思っていたからこそ、予想外すぎる展開に私は理解が追いつかず頭をより一層悩ませる。
隣にボスも乗り込めば、車はゆっくりと動き出した。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
