《１３９》 ページ43
「い…ッ！痛いってば…もうっ！」
「動くんじゃねぇ！消毒できねぇだろうがぁ！」
傷口に染み込む消毒液は、ツンと染みる痛みを私に与える。
頭はがっしりと兄に押さえつけられ、向かいに座るボスは淡々と私に薬品を塗り込み手慣れた手つきで手当てを施してくれた。
そういえば大怪我を負った時の任務も、その場でできる応急処置はボスがしてくれたと兄が言っていた。
組織のボスでもあろう者はやはりなんでも出来るものなのだろうか。
どこか懐かしさを感じならが進む手当を見つめ、出来上がりを鏡越しに見ればその丁寧さに私は目を輝かせる。
「それはどんな顔だ」
「え？これはボスからの施しなので、嬉しいのと、すっごく丁寧だったので尊敬の顔です！」
自分がどんな顔をしていたかはさておき、ボスから問われた事に声を弾ませて答えればくだらないと鼻で笑う。
兄は私に落ち着けと、はしゃぐ頭を掴んで近くの椅子に座らせ、向かいに自身も腰掛ければゆっくりと口を開いた。
「…んで、なんだってあんなことしたんだぁ？」
駆けつけた兄は状況を知るはずもなく、きっと聞かれるだろうとは予想していた。
けれど聞かれても答えるつもりのなかった私はきつく口を閉ざすと、一向に話す気の無い私に向け怒号を飛ばす。
しかし兄の隣に座るボスがその怒号を見逃してあげる訳もなく、直後に兄の頭部を目の前のテーブルに打ち付ければ静かに私を見据えた。
「俺らのため、だろ」
「あぁ！？どういうことだぁ！」
打ち付けられた衝撃により赤くなった額はじんわりと血を滲ませているというのに、ボスは知らん顔。
兄ももう慣れたというような顔で言葉を発しながら自らの手で軽い手当てをしていた。
その姿を横目に先程の出来事を淡々と話し始めるもんだから、予想を上回る知り様に私は驚きを隠せずにいた。
「なっ…な、んで…！殆ど全部じゃないですか…！」
「てめぇがいつまでもダラダラ続けてっからだろうが」
俺なら一瞬で消し炭にすると告げるボスを見て、兄は真似をするなと私に制止する。
その姿に再びボスが苛立ちを露わにすれば、折角手当てをしたというのに衝撃音を立てて打ち付けられる額からはまた血が滲んでいた。
ぐちゃぐちゃになった私の感情を、こうして溶かしてくれるのはいつだってヴァリアーのみんなだ。
決して微笑ましい訳ではないのに、私はその光景に思わず笑みをこぼしていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
