《１０１》 ページ5
《XANXUS side》
「あのね、ボス…私、期待しすぎてたの」
俺の隣で雑務をしていたはずのAはいつのまにかペンを置いていた。
何を聞いた訳でもねぇのに勝手に口を開きペラペラと話し始めるのはいつものことだ。
普段からそれに対して咎めることもなく、雑務の片手間に耳に入れれば時折その話に反応してやるのは今日も変わらない。
「…お兄ちゃんは私が何も言わなくても全部知ってると思ってたの。私がここに戻って来たい理由だって知ってると思ってたんだけど、違ったんだ」
すぐに何の話か察しはついた。
Aがキャバッローネの女共に不満を抱いているのは気づいていた。
どの立場でやってるのか知らねぇが、初対面で俺達を品定めするような目で舐め回し、気色の悪ぃ女を使って近づいて来ていた奴等。
俺達が興味の一つも示さなければターゲットはその日のうちにAへと変わり、Aを使って接点を持とうと必死だった。
だからこそ起きたあの日の出来事。
…てっきりカス鮫には早々に話していたと思っていたが、この口ぶりじゃ何も言ってねぇんだろう。
「…で、それがどうした」
「ん？あぁ…それでね、なんか悲しくなっちゃってさ。昔からずっと私のちょっとした変化にも気づいてくれてたのに、今回は何で気づいてくれなかったんだろって」
「そうか」
「勝手に期待して、勝手に裏切られた気になって傷ついてさ。ちゃんと話せばよかっただけなのに。自分がくだらない人間だなって思ったら、顔を合わすのが恥ずかしくなっちゃったの」
そう言いながら笑うAの目はどこか寂しげに見えた。
本当にこいつはカスだ。カス鮫に会いたいと言うならそう言えばいいし、会いたいと思うなら会いに行きゃいいのに。
本音とは裏腹な行動ばかりする目の前の女に苛つきはするものの、それを強いることはしない。
—————自分だけじゃなかったのかな。
なんて言いながらまたしょうもねぇ作り笑いで俺を見やがるもんだから、体は勝手にAに向けて動いていた。
「あのカスはいつだっててめぇしか見てねぇよ。だから時々周りが見えなくなってんだ」
Aがあいつしか見てねぇのと同じように。
少し乱れた髪を直してやれば、Aは困惑しながらも小さく言葉を紡いでいた。
「……ありがとう、ボス」
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
