《１３４》 ページ38
皆が任務へ出掛けていた日の夜。
それは兄から頼まれていた資料を纏め終えボスの部屋へ向かっている途中に起きた出来事だった。
「ほんっと意味わからない…！」
「これじゃわざわざここまで来た意味無いじゃない」
とある部屋から聞こえる不満の声に、私は意図せずして足を止めた。
聞こえてくるその不満は主としてどうやら私に向けられているようで、不覚にも聞き入ってしまう自分がいる。
先程のようにここへ来た意味を問う者もいれば、甘い声で幹部の存在に夢を見る者も様々だが、中でも一番多かったのはやはり私に嫌悪を抱き愚痴を漏らす声だった。
「A様、このお屋敷で唯一の女性だからって甘やかされ過ぎてない？」
「スクアーロ様の妹だから優遇されてるって聞いたわよ」
「ベル様もXANXUS様も、A様のことばっか気にかけてるし。女使って仕事貰ってるんでしょうよ」
どこかの隊員から聞いたんだろう。
こんな事務仕事ばかりで現場にも赴くことが出来ない幹部に不満を漏らすのは当然かもしれないけれど、この女達にここまで言われる筋合いはないはずだ。
それなのにこんな時に限って悔しくて何もできない。というよりも、私の悪い癖がこんなのに構うなと言っている。
あと少しの期間が経てばこの女達ともおさらばだと思うと、面倒ごとを避けてしまう故にただ黙って話を聞いているだけで、
女達はこの会話が私に聞かれているなんて思いもしない様子で会話を続けていた。
「所詮、XANXUS様もベル様も、女を見せたら弱いってことよね」
「あんな小娘如きに惹かれるなんてその程度のレベルなのかしら」
いい加減ボスのところに行かなくてはならないと分かってはいたが、どうにもその会話は許せない自分がいた。
私の今の立ち位置が見合わないだとか、女を使ってるだとか、それに関してはもう散々言われてきたから慣れている。
けれどそんな中で私という人間を見た上で選んでくれたボスの尊厳を損なうようなことや、大事な仲間達を踏み躙ろうというならば、それ相応の報復を。
続けて兄の話をしようものなら、重い音を立てて扉を開け放ち、女達の姿勢は一瞬にして私に集まる。
早々に青ざめる顔に反して、私は怒りで顔を赤く染めていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
