《１２６》 ページ30
ボスに散々揶揄われた日をきっかけに、私は少し警戒心が強くなった気がする。
「A、来い」
「はい！……ボス」
「……遠い」
「なーA、ちょっと来てくんね？」
「…あ、うん、うん！」
「…いや、距離ありすぎじゃん」
なんて、少し間を取りながら近寄れば、みんな不服そうな顔で私を見ていた。
隣へ来いと言われても、兄からどっぷりと説教を受け言い聞かせられた私は全てを兄のせいにして少し距離を取る。
もはや持ちネタかと思われるほどに繰り返していれば、いつしか兄が無駄にボスから物を投げられるようになったと聞いた。
それでも私は悪くない。何故なら兄がそうしろと言っていたから。
けれど唯一、私がゼロ距離で接する人がいる。それはもちろんお決まりの人と言っていいだろう。
「お兄ちゃんお帰りなさいっ！」
「ゔお！？なんだぁ？まだ起きてやがったのかぁ」
任務から帰宅した兄を玄関口の陰で隠れて待ち、兄の体が視界に入れば不意打ちで飛び込んだ。
突然の抱きつきに一瞬驚きながらも私を抱き止めてくれた兄は、ただいまと告げ私の頭をいつものように撫でてくれる。
「まじでスクアーロだけ例外とか意味わかんねー。納得いかねーんだけど」
「ちょっとベル、引っ張らないでー。お兄ちゃんがダメって言うんだから仕方ないでしょー」
近くで様子を見ていたベルは私の髪をぐいぐいと引っ張るもんだから、私はしっしっと手で追い払えば、その扱いが頭に来たのか始まる私とベルの口論。
目の前でギャアギャア騒ぐ私たちに呆れながら仲裁に入る兄は、止まらない口論に溜息を漏らす。
遂には口論で収まりが効かず、ベルが愛用のナイフを取り出し構えれば、私も対抗して護身用の短刀を取り出した。
しかしそれを兄が見逃すはずもなく、
「いい加減にしろぉ！ガキどもはとっとと寝ねぇかぁ！！」
「いでっ！」「くぅ〜…ッ」
鈍い音を立てて拳骨を落とされれば、私とベルはお互い頭を押さえながら痛みに悶え、目を合わせるなり2人で共通の敵と化した兄を睨む。
しかしそんな挑発じみた事をすれば兄の怒りがヒートアップしないわけもなく、再び落とされた拳骨に私は涙を浮かべながら部屋へと続く道を歩く。
後ろにはしっかりと兄が監視として着いてきながらも、続く私とベルの口喧嘩に今度は怒号が響くことは言うまでもないだろう。
「Aのせいで2回も殴られたんだけど」
「私のせいじゃなくてベルのせいだよ！」
「もう一発殴られてぇかぁ！？」
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
