【REBORN!】だいすきお兄ちゃん【３】 (ページ20)

今日:15 hit、昨日:33 hit、合計:3,996 hit

《１１６》ページ20

気づけば周りは人目を気にすることなく寄り添う恋人達が、私達と同じように夜の海を堪能していた。
昔見た昼間の賑わう海とは全く違う顔をも持ち、その景色は幻想的で、恋人のデートには持ってこいの雰囲気故にこうして集まってくるのも頷ける。
月の明かりは海を照らし、反射した光はまるで道のように伸びている。
このまま歩いてどこかに行けるのではないかと思わせる様なその景色に私は見惚れていた。
時折吹く風がその道を吹き消してしまえば名残惜しく、切ない気持ちにさせるのは夜風が私の身体を冷やすからだろうか。

「だいぶ冷えて来たし、そろそろ行くかぁ？」
「もうちょっとだけここに居たいんだけど…だめかな」
「いや、構わねぇよ」

兄が羽織っていた上着は当たり前のように私にかけられ、その温もりが冷えた体を暖める。
いつも嗅いでいる匂いとはまた少し違った、けれど兄らしい香りが私の胸をきゅっと締め上げた。
自分だってそう厚着をしているわけでもないのに良いのだろうかと思い兄を見やると、私の考えがわかったのか、気にするなと撫でられる頭。

「…お兄ちゃんは優しいよね。」
「突然なんだぁ？」

誰にでもそうなのかと考えたら少しやきもきし、思わず頭をぐりぐりと兄の鳩尾に埋めてしまう自分がいる。
その行為に肯定も否定もすることなく落ち着かせるようにして私の背中をさする兄。
兄よ、やきもきしているだけで私は怒ってなどいない。
いや、やっぱり怒っているのかもしれない。
私だけじゃないかもしれない、他の女性にも向けられている可能性のあるその甘い優しさに、堪えようにも不満は出てしまう。
一層押し付ける力を強めれば、私を引っ剥がすかのようにして向きを変えられ、後ろから抱きしめられた。

普段とは違う抱かれ方。
後頭部から響く兄の声は変わらないはずなのに、耳への届き方が違うせいで体は強張り、脈打つ鼓動は速さを増すばかり。
そんな甘い時間だったからなのか、私は無意識に心の内にあった疑問を投げかけていた。

「お兄ちゃんは彼女とか作らないの？好きな人とかいないの？」

「…まぁ、こんな汚ねぇ仕事してるしなぁ。いらねぇとは思ってねぇよ。実際好きな女もいるしなぁ」

世の中知らない方が幸せだということもあるというのに、なぜこんな質問を投げかけたのかと、数秒前の自分を恨む自分がいる。
少し恥じらいを含んだ顔で呟く兄を見て、私のくだらない恋心は、ますます醜さを増していくような気がした。