《１１３》 ページ17
連れてこられた繁華街は、久しぶりに降り立った時と同じように賑わいを見せていた。
行き交う人々が手に紙袋を持ち、各々がショッピングを楽しんでいる。
レストランのテラス席ではワインを片手にピッツァを頬張る人や、静かにドルチェを堪能する人など様々だ。
かくいう私は久しぶりに訪れた繁華街に、思わず目を輝かせていた。
「どうしようお兄ちゃん…どこから入ろう…！」
兄との約束でまた出かけようという話も、何やかんやで忙しなくしていたために行く機会も無かったために、ようやく叶った願に思わず目移りしてしまう。
ファッション、ジュエリーに惹かれるのは勿論のこと。
歩けばあちこちから漂う美味しそうな香りに釣られてしまえば、まだ夕飯前だというのに腹の虫は鳴る。
思わず恥ずかしさにお腹を抑えれば、兄は私を見て笑っていた。
「…食いしん坊だって思ったでしょ…」
「ぶはっ！ンなこたぁねぇよ。少し早いが飯でも食うかぁ？」
流石と言えるだろうか。
当然のように差し出された手を取ればさりげなくエスコートをしてくれる兄。
その整った容姿とこの国の平均身長はゆうに超える背の高さから、周りの女性は何度も兄を見るために振り返っていた。
日本でも感じたこの視線。その隣にいるのが自分という嬉しさがある反面、周りから不釣り合いと思われていないかと不安でもあった。
しかし周りから密かに聞こえるその声に微かな優越感を抱けば、私は自然と腕を絡ませた。
こんな時にしか、兄との恋人気分は味わえないから。
ご機嫌に街を歩く私を見て、兄もどこか満足げに笑っていた。
「…あれ、お兄ちゃん……」
続く道を曲がった所で見つけた一つのお店。
思わず足を止めれば、先を行こうとする兄もつられて立ち止まる。
微かに動く眉から、兄も見覚えがあるのだと悟った。
「……ここは…」
「やっぱり…そうだよね？」
見覚えのある、少し古びたレストラン。
昔の記憶を思い返せば懐かしさで胸がいっぱいになった。
「……昔、家族で来た所、だなぁ…」
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
