《１０７》 ページ11
《スクアーロside》
「…悪ぃが、何を話してぇのかはしらねぇが、出てってくれぇ」
「な、ぜですか…？」
別にAが嫌だと言ったから女を追い出した訳ではない。
もちろん、Aが嫌がることなら極力避けれることは避けてやりてぇとは思っている。
しかしこの件に関しては、単純に俺がこの女と2人きりになどなりたくないから。
他の女だったら良いとかじゃなく、Aと仕事以外に時間を割くのなんざ無駄なものだと俺は思っている。
俺の腕にしがみつくAは、俺の答えを聞くなり安心したのか猫のように擦り寄っていた。
つい先程まであんなにも俺を避けてたと言うのに、この態度の変わりようを見れば苦笑いが思わず漏れる。
甘えられるのも頼られるのも全く嫌とは思わねぇが、本当に現金なやつだ。
しかし目の前の女はこの場を去る気は無いようで、明らかにAに対して敵対心を剥き出しに睨んでいるのがわかる。
目の前にその兄がいるというのに大した度胸だと、今だけは感心した。
だが感心したからと言って不愉快にならないかと言われればそうではなく、寧ろ不快でしかないその目を見れば今この場で殺しても良いかと思えるほどだった。
「……うぜぇ」
蹴飛ばして追い出してやろうかとも思ったが、こんな女に触れたくもねぇ。
近くにいた隊員を呼び出し女の始末を任せれば、女は泣き喚きながら隊員に連れて行かれていた。
散々女の泣き顔はAで見慣れている筈なのにこうも違うものなのか。
Aの涙はもっとこう…綺麗、だよなぁ…。
「…なにが？」
無意識にも声に出ていたようで、Aは少しムッとした表情で俺を見つめてくる。
その不貞腐れ少し膨れる頬はやはり健在で、少し大人びて見えるAから垣間見える昔の幼さが愛らしくて堪らない。
その堪らぬ可愛さに衝動的にも抱きしめれば、Aは俺の腕の中で暴れた。
自分のことを言われているとは思ってもみないんだろう。
誰のことだと問い詰めるAを腕の中で押さえつけ、その耳元で囁けば喚くAはすぐに静かになった。
顔を赤くし、恥ずかしげに俺の胸へ顔を埋めるその姿もまた、愛しくてどうにかなりそうだ。
「他の誰でもねぇ、Aが綺麗だと言ってんだぁ」
熟れた頬へ落としたキスは、兄としてか、男としてか。
それはAにも話すことはない、俺しか知らねぇことだなぁ。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
