《９８》 ページ2
「……る…から…」
「ぬ？」
「そんなん！私が一番わかってるから！！」
言葉と共に繰り出された私の手は綺麗にレヴィの頬へ打ちのめされた。
まさか後輩なんざに平手打ちを喰らわされるなど思っても見なかっただろうレヴィは、避けることなど出来ず、重い体は音を立てて床へ転がる。
私のことが認められないからと言って、泣いたりなどしない。
毎日どれほど同じようなことを他の隊員から影で言われて来たことか。
幾度となく兄と比較され、その度に女だからと見下され、挙げ句の果てには贔屓だと散々言われていた。
その話を影で聞きながら、何度も悔しさに涙を溢しそうになりながらも歯を食いしばって堪えて来たんだ。
そう思うのに、いざ面と向かってそれを言われてしまうと、堪えているはずなのに涙は滲んでくる。
レヴィは不意の平手打ちに困惑していたものの、耐える私の姿を見れば立ち上がり私を嘲笑う。
「こんなんで泣くとは滑稽だな。…まあいい、先程殴られた分はしっかり返してやろう」
振り上げられる腕。その手にはきつく握られた拳がある。
私はグーではなくパーだったのにな。なんて思いながらも抵抗はしない。
先輩を平手打ちにしたことが握り拳で殴られる程度でチャラになるなら安いものだ。
その拳を受け入れるつもりで目を閉じるが、しかし一向に振り下ろされる気配が無かった。
てっきり焦らして不意に喰らわすつもりなのかと思い目を開ければ、レヴィは驚きのあまりに硬直している。
「ど、…して、ここに…？」
「声がでけえから全部聞こえてんだよ」
振り下ろさせまいと、レヴィの腕を握る手。
その腕にはどれほど力を込めて握っているのかと想像させるほど、血管が浮き上がっていた。
その力強さのあまりに顔を顰めるレヴィはただ詫びの言葉を連ねている。
「……よく聞けレヴィ。Aはあのカス鮫の妹だからヴァリアーに入れた訳じゃねぇ。
あのカスの贔屓目で幹部に成り上がった訳でも、女を使って俺の補佐にした訳でもねぇ。
こいつは—————…」
わかったかと、ボスに威圧されればレヴィは改めてボスに詫びを入れその場を慌てて去っていった。
その場に残された私は震える足でボスの元へと近寄り、その大きな体に身を任せた。
「ぼ、す……っ、ありがとう…」
その一言で、私がどれだけ救われたことか。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
