《１２》 ページ16
どうしよう。昨日来たばかりの人間が幹部の部屋へ許可なく入ってもいいのだろうか。
マーモンさんと別れたあと、私はベルさんを起こすために何度か部屋の扉をノックしながら声をかけていた。
いくら声をかけても返ってこない返事で、恐らくというよりも十中八九寝ていることが予想できる。
けれど起こさねば他の人も困るだろうし、やはり仕方がない。
「ベルさん、入りますよー…」
意を決した私は部屋主に悟られぬよう、恐る恐る扉を開ける。
———と、同時に飛んでくるナイフ。
うわぁ！？なんて声をあげながらもかろうじて避ければ、ナイフは私の目の前を通過し、しっかりと扉へ突き刺さった。
なるほど、表の扉の傷はこれが原因なのか。
それよりも起きているのであれば返事ぐらいしてほしいものだ。
なんて、妙に冷静に物事を把握している自分が意外すぎて少し感動。そして腕が鈍っていないことに安堵した。
奥からはしししっと軽快な笑い声が聞こえてくる。
声の方へ目をやると、器用にナイフを指で回しながらこちらに近づいてくるベルさんの姿が見える。
私はひとつ挨拶を告げ一礼すると、ベルさんは頬を掻きながら何やら考え事をしているようだ。
「あー…名前は覚えてねーけど、スクアーロ隊長の妹じゃん。王子の部屋で何してんの？」
「Aです。ルッスーリアさんに頼まれて起こしにきました」
そろそろ朝食の時間だと告げれば、どうりでと、お腹に手を当てにんまり笑うベルさん。
どうやらベルさんの腹時計が今の時刻を教えてくれたようだ。
無邪気で、まだ少し幼さの残るその笑みに愛らしさを感じながらベルさんと部屋を出た。
「あり、Aは食堂行かねーの？」
部屋を出て食堂とは逆の方向へ進む私に、ベルさんはきょとんとしている。
XANXUS様を起こしに行くことを伝えると、納得したという顔。
では、と改めてベルさんへ一礼し、XANXUS様の部屋へと歩を進めていたのに、後ろから聞こえる足音。
部屋の前で別れたはずなのに、ベルさんはちゃっかり私の後ろをついてきて、なぜついてくるのかと問えば暇だからと即答で返ってきた。
「も、申し訳ないので…ついてこないでくださると嬉しいです…」
「やだね。だって俺、王子だもん。王子に命令とかありえねーから」
命令ではない。お願いをしているだけなのだ。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年6月15日 18時
