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…
…
…ただ、進み始めて暫くした頃だろうか。次第にマイキーさんの様子がおかしくなっていった。
「…!」
は、は、と呼吸が早くなり、顔が真っ白になって、冷や汗が玉のように浮かんで。
はじめは一人おぶって階段を登っているから、体力的にキツイのかもしれないと思った。しかし私の足を掴む手が震えていることに気づいて、何というべきか、何かに怯えているような印象を覚えたのだ。
「は、は、」
「ま、マイキーさん?」
「は、…は」
「マイキーさん!」
「!」
慌てて呼び止め、一旦下ろして欲しい、と言う。
マイキーさんはそれに黙って私を下ろす。25階に繋がる階段の踊り場だった。
「マイキーさん、あの…私がこんなこと言うのもアレなんですけど、大丈夫ですか。む、無理しないでください…」
「…」
「…一回、座りましょう」
マイキーさんは私の声に真っ白な顔で頷くと、階段の段差に座り込む。私もその隣に腰を下ろした。
手を組んだまましゃがみ込んでいるため、マイキーさんの表情は見えない。でも組まれた手が震えていた。やはり精神的なものからくる何かだと、馬鹿な私でも悟ることができた。マイキーさんは小さな声で「悪い」と言うと、ぽつぽつと話を始めた。
「…エマが」
「はい」
「い、もうとが、死んだ時も、こ、こんな状況だったって、思い出して」
「…はい」
「オレの背中で冷たくなってく、アイツと、重さが一緒で…」
「はい…」
「そしたら、あの時みたいに、お前も冷たくなるんじゃないかって、思ったら怖くなって」
「はい」
「えまが、お前、えま…」
ひゅ、ひゅ、とまずい息の仕方をし始めたマイキーさんを見て「やばい」と思って、咄嗟に彼を抱きしめる。今は脇腹が痛いとか言ってる場合じゃなかった。
「…辛いこと、思い出させてごめんなさい。大丈夫。大丈夫です。大丈夫ですから…」
抱きしめながら譫言のように「大丈夫」を繰り返す。
語られたものは詳しいものではなかったけど、私を背負ったことでご家族が目の前で亡くなった時のことを思い出させてしまったのだろう。
何と声をかければいいのかわからず、ただ私は「大丈夫」と言いながら彼の頭を撫でて抱きしめ続けることしかできなかった。
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Kyoro丸。(プロフ) - 超面白いですね(笑)主人公の性格が癖強くて好きです(笑) (2023年2月11日 13時) (レス) @page13 id: ea6fdef67d (このIDを非表示/違反報告)
icchy(プロフ) - はじめまして!めっちゃおもしろくてハマりました✨是非どんどん続編期待してます!! (2023年1月9日 21時) (レス) id: 1c7a9fb991 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怪人百面相 | 作成日時:2023年1月6日 15時