第1タワー 9話 ページ24
.
案の定、見つけたのはグリムではなく、似た体型のファントムだった。
何とか倒し、ブロットへと変化していくそれを見て、エペルは目を丸くさせている。
「よ、よく見たら全然グリムクンじゃなかった……」
「うんうん。グリムはもっと可愛くてもふもふしてるもんね！」
「まったく。軽率な行動は慎みなさいよ」
ヴィル先輩の言う通り。少しの思い込みが、大変な事態を引き起こすかもしれない。今回は小さなファントムだったから良かったものの……私もちゃんと注意しなきゃ！
「収容所外でファントムに遭遇する回数が増えてきた。下のフロアの収容所内で回答が進んでいるようだね」
「グリムクン、どこにいるんだろう。ファントムに襲われてないといいけど……」
「大丈夫。彼はあれでいて度胸もあるし、賢い。きっとどこかに身を隠して難を逃れているさ」
「ツナ缶をファークで叩いて音を出せば、すぐに飛んできそうな気はするけどね」
たしかに食い意地最強オブ最強のあの子のことだから、すぐに出てきそうですね()
「そういえばヴィルサンは、『S.T.Y.X.』本部では、グリムクンと1度も会わなかったって言ってましたよね」
「ええ。さっきアンタたちに話を聞くまで、ここに連れてこられていることすら知らなかった。おそらく……ユウを襲ったことに関してブロットによる影響を疑われたんでしょう。
明日の朝アタシたちと一緒に出所予定だったなら……ＶＤＣ後のグリムの凶暴化とブロットの因果関係は、認められなかったのかもしれないわね」
「…………」
たしかに、明日の朝にはグリムはみんなと一緒に学園に戻ってくる予定だったのかもしれない。だけど、彼が凶暴化した原因はほぼ100%、ブロットの結晶を大量に摂取したからだ。
すぐに戻れたとしても、ブロットとの因果関係はどうしても引き離せないだろう。
「グリムくんは魔獣だ。どんなに人慣れしていても、獣はふいに野生に戻ることもある。制御しようとしてもできるものじゃない。生まれ持った本能だからね。でもそれは人間も同じこと。理性というのは、脆く頼りない薄氷のようなものなのさ。
だからね、ユウくん。グリムくんがキミを傷付けてしまったことは……本人、いや、
「もちろん、わかってます」
調子に乗りやすくて、そそっかしくて、意地っ張りだけど、それ以上にグリムはいい子だから。人を傷つけるようなことはしない子だと、私が一番わかってる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紅葉 | 作成日時：2023年4月21日 21時
