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No side
「やはりここにおったか、マレウス」
リリアがやって来たのは、オンボロ寮の談話室。
元々はただの廃墟で人が住めるような場所ではなかったが、ユウたちが住み始めて、やっと生活感が出てきたと思えば、襲撃に遭い、この有様だ。
談話室の中心では、リリアが探していた人物が寂しそうに佇んでいる。
「……リリアか。どうした?」
「お主が部屋からいなくなった、とセベクが騒いでおってな。探しにきたのだ」
「ああ……何故か昨日から10分おきに僕の部屋の前へ現れるものだから、気になってしまって」
「はっはっは!あやつは声もでかいが、気配も騒がしいからなぁ」
先程のセベクの話を思い出しながら、リリアは笑う。しかしマレウスはスルーし、静かに口を開いた。
「少し1人になりたくて、ここへ来た」
「……ここは入学して以来、お主のお気に入りの秘密基地じゃったからのう」
「そうだな。ユウが現れてからは、そうもいかなくなったが……」
マレウスは初めてユウと出会った日を思い返す。あの時は無視したが、自分相手に『不法侵入者』と疑ったり、自分の存在を知らない者がいたことに驚いていた。
「……ユウがここに住み着き、最初は残念に思った。
僕は、廃墟が好きだ。崩れた壁に這う蔦、割れた窓から忍び込む風……人々に忘れ去られた場所の孤独で静かな空気は、僕を落ち着かせてくれる。歴史に置き去りにされるのは、僕らだけではないのだと」
「…………」
「でも……何故だろうな?ユウたちがいなくなり、活気が失せたこの場所を歩いていると……茨の棘が肌を擦るような不快感がある。僕が気に入っていた廃墟の姿へ戻ったはずなのに……」
「マレウス…………」
あの日の夜、マレウスはリリアに悲しそうに話していた。あの建物が廃墟ではなくなった、と。
しかしたまにあの場所へ遊びに行く度、少しずつ彼は嬉しそうに話をしていた。
ユウとの出会いが、マレウスに何かの影響を与えている……そうリリアは感じていた。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2023年3月18日 11時