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「ていうか……『S.T.Y.X.』の人たちは、なんでヴィルサンたちをあんな乱暴な方法で連れ去ったの……かな？ひどいことをするわけじゃないなら、連れ去る前に説明してくれればよかったのに」
「うん。渡し守の存在を知らない人がほとんどだし、いきなり攫われそうになったら誰だって抵抗の意志を見せると思うけど」
実際、ヴィル先輩もジャミル先輩も魔法結界を破った侵入者として、カローンたちと戦った。あんな強引な手段じゃなくても、他の方法があったんじゃないかな。
「ごめんね。基本的に被検体は、冷静に対話ができる状態じゃないことがほとんどなんだ。だから双方の被害を最小限におさえるため、まずは対象を確保。その後に事情聴収……っていう行動をとらざるを得ない。
オーバーブロットした魔法士は、理性を失った怪物も同然。欲望と妄執の塊と言っていい。自分の願いをかなえるためならどんな手段もいとわない、危険な存在だからね」
「「「……………………………………」」」
オルトくんの言う通り、彼らはみんなそうだった。何かに固執し、何かに抗い、何かから解き放たれたい……そんな願いが暴走していた。
「それに、これだけの短時間に近しい人が連続でオーバーブロットするなんて、過去にもほとんど事例がない。『S.T.Y.X.』側も警戒せざるをえなかったのさ。調査の結果、幸運にも全員が正常な状態に戻っていたことが証明されたからよかったようなものの……。
最悪の事態も想定できたからね。オーバーブロットした本人も、側にいた人間も、誰も命を失わなかったことは……本当に幸運なことなんだよ」
最悪の場合、命を落とす……たしか学園長もそう言ってたな。そう考えると、5回もオーバーブロットが起こっても、当事者たちは生き残り、その全てを目の当たりにした私も無事だったのは、どれくらいの確率なのだろう。
「……そうだね。私たちは本当に幸運だった。ヴィルがオーバーブロットしてしまったあの日のことを、夢に見て飛び起きることがある。鏡よりも、彼の500万人のマジカメフォロワーよりも近くで彼のことを見つめていたつもりだったのに。
私は彼の隣で、彼のなにを見ていたんだろう……」
「ぁ…………」
副寮長として、友人として、彼はきっといつもヴィル先輩の隣にいた。それなのに、彼の悩み、苦しみに気づけなかった自分を責めている。
……嗚呼、彼もまた、優しい人だ。
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作者名：紅葉 | 作成日時：2023年3月18日 11時
