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すると寮生が一人、否定の言葉を叫んだ。
「でも、様子がおかしくないときの寮長は本当に大らかで、優しいいい人で…………」
「こんなことになる前は、俺たち全員寮長のことを尊敬してたんだ。どの寮よりも素晴らしい寮長だと思ってた」
彼らは口々に、カリム先輩との思い出を語り始める。
「入学したばかりの頃、寮に馴染めなくて悩んでいた時、自分の話を親身になって聞いてくれた」
「授業のレベルについていけなくて学校を辞めようと思っていた時、朝まで特訓に付き合ってくれた」
「ちょっと大雑把で頼りないところもあるけど、俺たちはみんな寮長が大好きだったんだ。
スカラビア寮生でいられることが楽しかった。それなのに……」
大好き、か……。
きっと今まで数え切れないくらい、たくさんのことをしてもらったんだろう。だから彼のことが大切で………。
「そう、カリムは本当にいい寮長だ。誰とでも分け隔てなく接し、偉ぶることもない。
ああ、なんでこんなことになってしまったんだ……」
「慕っているからこそ踏ん切りがつかない、いい人だからこそ責められない、か……」
確かにそこは難しいところかもしれない。私だって、グリムがおかしくなっても、いつもは可愛い子だからって、責めることもできないだろうし。
「あのよー。カリムのヤツ、医者にでも見てもらったほうがいいんじゃねーのか?言ってることがコロコロ変わるし、性格がまるで別人みてーになっちまうなんて、ちょっと変だろ?なんか悪いモンでも食っちまったんじゃねーのか?」
「それこそ毒、とか……あるいは心の病気の可能性も」
「毒ということはないだろう。もし毒の作用なら毒味係の俺も同じ状態になっているはずだ。
だが、精神的病か……。確かに、その可能性も否めないな。しかし、医者か。熱砂の国に戻ればアジーム家お抱えの医者がいるが……今の様子じゃ、実家に連れ戻すのも一苦労だろうな」
「そんなぁ……」
「このままじゃ、俺たちが先に参っちまいますよ……」
頼みの綱のジャミル先輩も、策がない。一同肩を落とした。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2022年9月5日 19時