検索窓
今日:30 hit、昨日:5 hit、合計:8,748 hit

▶︎ ページ45

.

すると寮生が一人、否定の言葉を叫んだ。

「でも、様子がおかしくないときの寮長は本当に大らかで、優しいいい人で…………」

「こんなことになる前は、俺たち全員寮長のことを尊敬してたんだ。どの寮よりも素晴らしい寮長だと思ってた」

彼らは口々に、カリム先輩との思い出を語り始める。

「入学したばかりの頃、寮に馴染めなくて悩んでいた時、自分の話を親身になって聞いてくれた」

「授業のレベルについていけなくて学校を辞めようと思っていた時、朝まで特訓に付き合ってくれた」

「ちょっと大雑把で頼りないところもあるけど、俺たちはみんな寮長が大好きだったんだ。
スカラビア寮生でいられることが楽しかった。それなのに……」

大好き、か……。
きっと今まで数え切れないくらい、たくさんのことをしてもらったんだろう。だから彼のことが大切で………。

「そう、カリムは本当にいい寮長だ。誰とでも分け隔てなく接し、偉ぶることもない。
ああ、なんでこんなことになってしまったんだ……」

「慕っているからこそ踏ん切りがつかない、いい人だからこそ責められない、か……」

確かにそこは難しいところかもしれない。私だって、グリムがおかしくなっても、いつもは可愛い子だからって、責めることもできないだろうし。

「あのよー。カリムのヤツ、医者にでも見てもらったほうがいいんじゃねーのか?言ってることがコロコロ変わるし、性格がまるで別人みてーになっちまうなんて、ちょっと変だろ?なんか悪いモンでも食っちまったんじゃねーのか?」

「それこそ毒、とか……あるいは心の病気の可能性も」

「毒ということはないだろう。もし毒の作用なら毒味係の俺も同じ状態になっているはずだ。
だが、精神的病か……。確かに、その可能性も否めないな。しかし、医者か。熱砂の国に戻ればアジーム家お抱えの医者がいるが……今の様子じゃ、実家に連れ戻すのも一苦労だろうな」

「そんなぁ……」

「このままじゃ、俺たちが先に参っちまいますよ……」

頼みの綱のジャミル先輩も、策がない。一同肩を落とした。

▶︎→←▶︎



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
29人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紅葉 | 作成日時:2022年9月5日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。