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「朝までかかって、やっとオレ様の両腕が通るくらいの穴が掘れたんだゾ」
「1日目にしてはいいペースだよ」
あれから見張りと掘り作業、そして仮眠を交代しながら朝を迎えた。さすがに一晩では無理だったけど、想定以上に進められた。これなら脱出も近いかも。
とりあえずこの穴は、部屋にあった木箱で隠すことにした。小さい穴だけど、見つかったら厄介だしね。
すると外でガチャガチャという音が聞こえ、1人のスカラビア寮生が入ってきた。
「出ろ、お前たち!朝の特訓の時間だ。今日も東のオアシスまで行進する!」
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「寝ぼけた顔をするな!気を引き締めろ!さあ、東のオアシスに向けて出発!」
準備をして外に出ると、昨日と同じように寮生は傘を片手に……そしてカリム先輩は一人、大きな象の上に立っていた。
「うぅ、寝不足の身体に暑さが辛いんだゾ〜…」
「寝不足なのか?体調を崩さないように水分補給をしっかりな」
「ありがとうございます」
「ジャミル〜……わかった、気をつけるんだゾ……」
全員が揃ったところで、並んで行進が始まる。グリムの言う通り寝不足か、はたまた気のせいか、昨日よりもキツさが増しているような気がする。
「後方、贈れてきてるぞ!傘をもっと高く!」
「ひぃ、はぁ……」
「しっかりしろ。こんなところで立ち止まったら干からびるぞ」
「そ、そんなのゴメンなんだゾ〜……」
「頑張ろ、グリム。はいこれ、水筒」
私はジャミル先輩から渡された水筒をグリムに渡す。カリム先輩はちょうど前を向いているので、こちらには気づかない。
それからも行進は続く。周りの寮生達の顔色は、明らかに普通ではなかった。
「昨日より時間がかかってるぞ。もっと早く!」
「うぅ……これ以上歩けない……」
「オアシスが見えてきた。もうすぐ休憩だ!みんな、あと少しだけ頑張ってくれ!」
「副寮長……こんなときまで俺たちを励ましてくれるなんて……!」
「どんなに励まされたってオレ様もうへとへとなんだゾ〜!」
ジャミル先輩は少しずつ後ろにさがりながら、寮生たちのサポートを行っている。
カリム先輩の横暴さに耐えながら、他の人にまで手を回すなんて、すごくしっかりした人だと思った。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2022年9月5日 19時