〇苦しそう ページ33
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おかしい。彼はこんなことを言う人ではなかった。
サッカーがなかなか上達しなかったフロイに優しい言葉をかけていたようなお兄さんだったのに。
「ほら、答えられないだろう？」
『………』
「彼女と同じだ」
『彼女？』
誰かを指した言葉であることは明白だが、詩音に思い当たる人物は思いつかない。
しかし、ベルナルドも明かすつもりはないらしい。
「まぁ、しっかり考えることだ。今の自分が感情をむき出しにし続けるチームにいるのが正しいのかどうかを」
あ、そうだ。と振り返るベルナルド。
「私は試合以外で選手に危害を加えるようなことはしない」
『……それ、って』
客が帰る、車を出してやれ。
尋ねようとする詩音を遮り、そう黒スーツの人に一方的に告げたベルナルドは部屋を出ようとする。その後ろ姿を見て、咄嗟に呼び止めた。
『ベルナルドさん』
「？なんだ？」
『……あなたは、なぜ苦しそうなのですか』
「なに？」
詩音は気になっていた。ベルナルドは膝の上で拳を作っていた。その拳がサッカーの話や、詩音のトラウマを抉る話をしていた時に、小刻みに震えていたこと。
自分でも分からないが、脳みそはその姿を “苦しんでいる” と捉えた。
驚いたようにベルナルドは振り返る。しかし、その顔には一言では言い表せない表情が作られていた。
「……それを言ったところで、君に何が出来る？」
『……』
「冗談だ。君は自分の感情を表現出来ないあまりに、相手に理想の感情を写見ているんだ」
『……そう、でしょうか』
そうだよ、と言った彼は直ぐに部屋を出てしまった。
ベルナルドの言葉が頭をぐるぐる回る。気がつくと黒スーツの人に車に乗せられており、しばらくしてイナズマジャパンの宿舎に戻された。
ありがとうございます、と一言礼を言って車を降りた詩音は宿舎の中に入った。
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作者名：おまんじゅう | 作成日時：2023年12月12日 23時
