無色の詩姫【イナオリ】第五章 (ページ12)

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〇知らない彼女ページ12

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「いいや、居なかったら居ないでいいんだ」

『？……あ、ユリカの事ですか？』

「……そうだな、良かったよ」

覚えていて良かった、という意味に捉えた詩音だが、ベルナルドの表情に対しては疑問が残った。

その時、ピーっと試合開始であろうホイッスルが鳴った。やばい、行かなくては。そう足を進めようとして踏みとどまる。

そういえば、今道に迷っているんだった。

これから試合がある選手の言い草とはとても思えない事を思い出した詩音は隣のベルナルドを見る。

『すみません、御手数ですがフィールドまでお願いしてもいいですか？』

「私はタクシーでも案内人でもないんだが」

『どういけばたどり着けますか？』

「相変わらず、迷子になりやすいのは健在か」

苦笑いをするベルナルドに真っ直ぐ瞳を向ける詩音。どうやらその瞳はベルナルドにとっては癪だった様子。

眉にシワを寄せるベルナルドを見て詩音はよく分からない顔をしていた。

「詩音、君に頼みたいことがある」

『何でしょうか』

「強化サポーターの作成を―――」

『すみません。1度ハッキリとお断りしたはずです。あの様なものの制作には関わりません。というか、開発すること自体考えを改めるべきかと』

食い気味で否定した詩音の声は明らかに強い意志を持って放たれていた。

ベルナルドは不思議だった。
誰かの期待に応えることしか出来なかった人形(・・)が何故ここまで自分の意志を確立させることが出来ているのか。

幼少の彼女を知る彼は＿＿＿＿＿

詩音の日本での成長をまだ知らない。