鬼舞辻無惨を殴るまで【鬼滅の刃】

在りし炎　 ページ41

___私と“彼”との出会いは、蝶屋敷で偶然居合わせたものだった。




「君、怪我した？今人がいないからな……私が代わりにやろう」

「！貴女は…」




先代炎柱と瓜二つの顔立ちで、そして同じ炎色の羽織の彼は、驚いたような顔をして私を見た。


「任務かな？頑張ったな…」

「あ、ありがとうございます！」


手際良く負傷した腕に包帯を巻いていく私に、彼は恐縮したような……それでも凛とした声で礼を言った。


それなりに大きな任務……だったのだろう、きっと。


初めてきちんと顔を合わせた彼は、顔見知りの元炎柱にそっくりで、しみじみ息子なんだな…と思わされる。


「その怪我だと多分……数週間は養療になるね」


手当を終えて手を休めた私がそう言うと、彼は一瞬目を開いて、すぐ気まずそうな顔をして、目を伏せた。


「俺が…力不足な為に………父上のようには…」

「誰だって最初はこうだ。慎寿郎も初めはへっぽこだった」


はん、と鼻で笑いながらそう言うと、彼はまた驚いたように口を開く。


「ち、父上の昔を知ってるんですか…！？」

「まぁ…君が思ってるよりかはここにいるから。あと、貴女じゃなくて私は桜子………それで、そんな君の名前は？」




「____俺は…煉獄、杏寿郎」




出会いはそんな他愛のないもので、杏寿郎が怪我を完治するまでの間、蝶屋敷に居候していた私はよく彼と一緒にいた。


初めは位の高い私に、彼も一線を感じていたのか畏れ多いような反応をされたものの、次第にそれも師弟のように変わった。


「嬉しいです！貴女のような強い人に、剣の稽古を付けてもらえるとは！」


鬼殺隊として、強くしっかりした信念と意思を持つ彼に、私は稽古を付けるようにもなった。




杏寿郎との出会いから、2週間が経った時、突然そこに影がかかるまでは。


柱合会議で屋敷を空けて、帰って来た私が見たのは、初めて暗い顔をしていた杏寿郎の姿だった。


元柱で父である慎寿郎が、お前に鬼殺隊が務まるかと手紙で責めたらしい……と、屋敷の子には聞いた。


「……杏寿郎、思ってることがあるなら、口に出して言う方がいい」


その隣に立った私が声を掛けると、私と同じ身長くらいの彼は、ちらっと静かに私を見て、


「父上のようになれるか、不安で仕方がない」




「__なら、強くなればいい。鍛錬して、鍛錬して、出来るようになればいい…」




その1年後に、杏寿郎は誰もが目を見張るような厳しい鍛錬を乗り越えて、柱になった。


その目に迷いは無かった。




「___誰より強い貴女には、まだ遠く及ばないな」

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