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【過去】ごく最近皇帝近衛兵団の団長に選ばれた若き青年。
彼はアースガルデン帝国北部にある街で、雪の降る日に生まれた。両親は明日の食事のために必死に働かなければならないほど、とても貧しい家庭だった。それでも家計は火の車。幼ながらにそれを理解していたフランは、高等部に上がる頃には皇帝軍への志願を諦め、職に就こうと考えた。だが両親は「自分の夢を貫けばいい」と軍への志願を勧める。しかしそんな金はない。
ある日「臨時収入が入るから、家計のことは心配せず高等部に進学すればいい」と父が言った。
当時のフランは迂闊にもそれを信じてしまった。今となっては疑うべきだったのだと後悔している。何故なら火の車である家計を立て直しフランを軍学校へ通わせ続けるため、保険金を目当てに親が自害したのである。
『進学おめでとう』の文字と共に贈られた赤いマフラーは、彼の家族の最後の贈り物だ。
そうしてフランの高等部、大学部の生活が始まった。親の命と引き換えにこんなチャンスを得たのだ。無駄にはできない。彼は必死だった。何がなんでも好成績を残さなければいけないと。必死で勉学に励む彼は友情も恋愛も疎かにしすぎたのだろう、軍学校時代は友達は少なかった。元々友人が多い人でもなかったが。
そして気付いた時には、彼は軍学校の成績はトップクラスだった。だがそれでも足りなかった。卒業が決まった。足りない。皇帝軍の近衛兵に抜粋された。足りない。近衛兵団団長になった。足りない。
しかしこれ以上何をしろと？ ＿＿なんでもいい。結果さえ残るならなんでもしろ。
そんな自問自答を繰り返す。しかし、そこで彼は気づいた。もう自分の周りに誰も居ないことを。あまりに必死に結果を残すことに執着しすぎて、周りが少しずつ離れていったことを。今は本当に、何人かが遠巻きに自分を見ているだけなのだと。
何かこの心に開いた穴を埋めるものが欲しい。今はただそれだけなのだ。
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