我儘プリンセス【CS・派生作品】 (ページ5)

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ボロ家に着くと、鏡子はひらりとバイクから飛び降りる。ワンテンポ遅れてその長い髪が背中についた。地下に降りれば、そこそこに人もおり、沢子と話をしている人物も見受けられることから今日もいくらか依頼が舞い込んでいるのだと分かる。
「ヤジ。今日依頼来てる？」
「こんにちは鏡子さん。依頼でしたら、ええと……」
　その長身を見上げ、鏡子はそう言う。物が散乱したデスクから沢子が持ってきたのは、いつもの見慣れた書式の依頼が記載された紙。今日はこの三件がありますね、と差し出されたそれを受け取り、鏡子はまじまじと紙の上で規則正しく並んだ文字達を見つめる。
　喋る猫を見てほしいという依頼、ある人にお礼を伝えたいOLの依頼、像に手を振りかえしてしまった中学生の依頼。どれもDランクとCランクで、鏡子にもきっと払えるだろうものだった。
「ふぅん……あ」
　鏡子が目に止めたのは三つの中で唯一のCランクの依頼。そこに記載されていた依頼主の学生が通っている中学が鏡子の卒業した中学だったのだ。依頼者が中学二年生であるから鏡子と学校内で関わることはなかったはずだが、後輩からの依頼となれば少しは情も湧く。
「報酬は……無し、と」
　相手は学生なのだから報酬なんて出せることは期待していない。別にそんなものなくても鏡子はこの依頼を受けようと思っていた。幸い今は課題に追われているわけでも無いのから時間は沢山ある。
「そうね……折角だからこれ受けるわ。ヤジ、資料とかある？」
「少々お待ちを」
　奥に引っ込んでいった沢子の背を見つめていると、近くのデスクで何かの書類を眺めていた藁粥が顔を上げて鏡子に言った。
「あ、それ報酬は俺が出すよ」
　勿論君が望むならの話だけどね、と付け加える。なんでと聞けば面白そうだからと返ってきた。
「三十万なんてどう？」
「三十万？」
　今までこなしてきた依頼の中でも随分と高額な報酬を提示され、鏡子は藁粥に何かの間違いではないのかと聞き返してみる。ちゃんと解決したら三十万出すよと笑う藁粥を見て、ここで依頼を受けずにいたら自分に力が無いと言われるような気がした。しかし受けてもなんだか報酬に釣られたみたいだ。
「いいわ、報酬は……帰ってから決める。報酬無しじゃ見合わない労力だったら三十万寄越して」
　それを快諾した藁粥に、用意出来なかったとかいう事態はないようにねと念を押してから、戻ってきた沢子にもらった資料を読みつつ、鏡子はボロ家を出るのだった。