我儘プリンセス【CS・派生作品】 (ページ4)

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「7/31：手を振りかえしちゃったの」灰咲鏡子ページ4

「お嬢！おじょ〜う！！迎え来たぜ〜〜！！！！」
　聴き慣れた声が大音量で耳に届く。校門前に黒いバイクを止め、その前で男が鏡子に向けて手を振っていた。
　周囲がざわめきだし、鏡子の友人の一人がお嬢の知り合い？と聞いてくる。フルフェイスヘルメットをつけているから顔は見えないが、そんなもの見なくても誰なのかぐらい分かった。鏡子は友人に、迎えが来たと一言だけ告げるとつかつかとその男に歩み寄り、ビシッと指を指していうのだ。
「声が大きい！やかましいわクチナシ！！」
　悪ぃと謝る尳無に、人前でなかったらビンタをキメてたところねと鏡子は少し不機嫌そうに言う。もしそんなことをしていたら尳無の首が取れていたはずだ。校門前でビンタされた男が首を落とすだなんてことになれば、生徒は上を下への大騒ぎになること間違いなしである。
　大きくため息をつくと鏡子は改めて尳無の方に向き直り、頭のてっぺんから爪先までを眺めてみる。
「……あのねぇ。クチナシ」
「おう、なんだ？」
「とりあえずヘルメット外して」
　素直に鏡子の指示を聞き、尳無はヘルメットを取る。燃えるような赤髪がヘルメットの下から現れた。鮮やかなその色のおかげで、黒ずくめでも地味さはない。
「……」
　無言で尳無を見つめる鏡子。俳優だと言われても違和感のない二枚目風の顔立ちの男がライダースーツを着こなす様は確かにカッコいいと思うのだが、身長190近いこの男に全身真っ黒な服装でフルフェイスのヘルメットなんてつけられては危ない人にしか見えない。
「いいこと？その身長で全身真っ黒フルフェイスヘルメットって格好は警察呼ばれかけるからやめてちょうだい」
　次回から外してきてよねと愚痴をこぼす鏡子だが、勘弁してくれといった様子で尳無は肩をすくめる。
「首がここまで来られないから結局サツ呼ばれるぜ、お嬢」
　確かに、首の無い男がバイクで爆走していた方が危ない。黒づくめの格好とは違って話してもなんともならない問題だ。不便な体をしているとは思ったがそういう怪異なのでしょうがないだろう。諦めるしかない。まぁいいわと適当なところで話を打ち切り、鏡子は尳無が跨ったバイクの後ろに慣れた動きで乗る。
「クチナシ、ボロ家までお願いするわ」
「よし来た！」
　二人を乗せたバイクが猛禽類に似た鋭い叫びをその場に残して学校を後にする。今日はどんな依頼が来てるかしら、なんていう鏡子の呟きは、バイクの唸り声と風の音でかき消された。