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件の像の前。さやかには同じ場所の反対側の歩道にいるように伝えて、鏡子はしばらくぼーっと像を眺めている。
さぁ、手を振って。私はあなたを見てるから。貴方の存在を知覚できるから。
「佐伯さやかに会わせてちょうだい」
小さく呟いた、その刹那。像が鏡子に手を振った。鏡子もそれに意を決して振り返す。
「 ヤ ッ パ リ 見 テ タ ！ 」
あの時と同じ、女か男か大人か子供か、何一つ判別できない気味の悪い声がそう言った。と同時に、今日この前にぶわっとモヤが広がる。それを見届けた瞬間鏡子は腕をモヤの中に突っ込んだ。
「サエキ！！」
確かにその声はさやかに届いたのだろう。鏡子の手に温もりが触れた。モヤの先は見えないけれど、確かに佐伯さやかはそこにいて、己の手を握っているのだと確信した。手を引く。さやかの腕が現れる。そして体がこちら側に引き戻される、が。
「……！？ 足掴まれたっ……！」
「なんとかして振り解きなさい！」
そんな無茶なと声を上げるさやか。鏡子の体が少しずつモヤに近づいていき、さやかの体もモヤに飲み込まれていく。
「でも私今あなたから手を離したらあなた戻って来れなくなるわよ！？」
「そんなこと言われても！！」
ああもう、こんなことになるんなら一人で依頼なんか来るんじゃなかった。誰か呼べばよかったなぁとか頭の隅で思いながら、鏡子は必死で引き戻されまいとさやかの腕を掴む。しかし残酷にもモヤは近づいてくる。ああもうダメだと思って、両手で引っ張っていたのを片手に切り替え、空いた手を使って何にも無い宙で掴めるものを手に収めようとする。
「やっぱり、もうダメ──」
目を瞑る。不意に、自分が宙に彷徨わせた手を誰かがひっ捕まえた気ががした。
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