【佐久早聖臣】この病の名前は恋ではない

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音花「A！こっちこっち！」

A「待って…！」





私は大きなトランクを手に、神経をすり減らしながら慎重に運ぶ。

私はこれを他人に預けたくないので、それ知っているを彼女は手伝うことなく先へ先へと行ってしまう。



そこへ、





A(…あ、)





見たことのあるジャージ姿が。



そこには勿論、彼もいるわけで。

大きな鞄を運ぶ私は隠れる間もなくすぐに見つかってしまう。





佐久早「…、……来たんだ」

A「…音花に応援演奏に誘われたからです」

佐久早「…あそ」





マスク越しとはいえ驚きを隠せない表情を覗かせる彼に、私は素っ気なく返す。

彼は何か残念だったのか、声のトーンを落としてすっと横に目線を流した。

そのままチームに戻ろうとするが、今度は私が声をかける。





A「待ってください」

佐久早「…なに、」

A「佐久早くん、前に聞きましたよね？なんで部活入ってないのって」

佐久早「うん」

A「私が部活入らない理由ですが…弾きたい楽器がありまして、」

佐久早「弾きたい楽器…？」

A「はい、そのために今これで鍛錬を積んでいる所です。今日はこれを聞かせてあげます」

佐久早「………へぇ…そう。…で、それは何の楽器？」





ようやく彼に部活に入れない理由を言えた、と少しだけ安心とともに満足感がわく。

それに彼は黒い目を少し丸くしたあと、今度は怪訝そうに聞く。



私は彼の目線の先の重いトランクを軽く持ち上げると、





A「グラスハープです」

佐久早「グラス…？グラスって…ワインとか入れる？」

A「はい」

佐久早「…グラスで演奏するの？」

A「はい、これで演奏します。応援するので、少しは聞いてくださいね？」





私は得意げに笑ってみせると、音花の姿が見えなくなった方へと再び足を動かした。

…いつもなら「別に聞かなくても…」なんて言うのだが、奏者の私は違う。





＿＿来たからには耳に残していってもらわないと、ね？





＊

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