*メビウス症候群 by.eoheoh ページ6
ごく普通な男子らしい部屋。
そこへと向かう足取りはやや速度を上げていた。
可愛らしくラッピングされたプレゼントを胸の前に抱え、空いているほうの手でその部屋へと通ずる扉をノックした。
「…いるよ」
眠たげな低い声が返ってきたのを確認して、私はそそくさと扉を押し、部屋にいた青年、えおえおに駆け寄った。
「えおえお!体調崩してない?」
「うん。俺は平気。Aは?」
「私も平気!あのね、これ、貰って!バレンタインの時大会で忙しかったからちょっと早いけどホワイトデー!」
お互い体調の変化を確認した後、私はプレゼントをえおえおに手渡す。
彼はそれを受け取り「?」を頭の上に浮かべる。
「あれ、ホワイトデーって男子から女子に、じゃなかったっけ」
彼は「?」の理由を完結に話す。元々彼は天然だ。私はふふっと笑ってその疑問に答えた。
「だからぁ、毎年えおえおにはお世話になってるからせめてホワイトデーに、ってこと」
彼は短く「へぇ」と呟きプレゼントを机に置く。
そして、一切表情を変えることなく私に向き直る。
「ありがと」
「うん。こちらこそ、いつもお世話様です」
私は笑ってそうお礼を返す。すると彼は首を傾げて私の顔に手を当てた。
彼の行動を疑問に思っていると、少しだけ物悲しげな声色で私に語りかけてきた。
「…ごめんね。俺のせいでしょ。Aが悲しそうな顔してること」
…どうやら笑っていたつもりが悲しんでいたようだ。
その間にも彼の表情は変わることはない。私が、私だけが、ただひたすらに感情を露にしている状態が続いた。
「俺が病気じゃなかったら、もっと笑ってAを喜ばせられた?Aを…」
間を置いて彼は口を開く。言葉に詰まって数秒、再度口を開きかけたとき私の頬を何かが伝った。
「そうやってAを泣かせたりしなかった?」
ああ、
私は何をしているんだろう。
ただでさえ、沸き上がる感情を表す術を持たない彼を余計に悲しませて苦しませるなんて。
私は元々感情が顔に出やすい。
だから感情を我慢する事がどれだけ苦痛な事かを理解できる。
私は君を喜ばせたい。
私は君を悲しませたくない。
なのになんで。
いつか君が
泣いて
怒って
笑えるようになりますように。
メビウス症候群 ーーー fin
*先天性中枢性肺胞低換気症候群 by.つわはす→←*妄想性パーソナリティ障害 by.ヒラ
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作者名:歩く黒歴史製造機 | 作成日時:2015年3月9日 22時