*若年性アルツハイマー型認知症-下- by.FB777 ページ4
「FB?痛い?辛い?苦しい?」
急な悪寒が背筋を伝う。
悪寒と言うよりは焦りに近い感情だが、腕を背中に回して彼に問いかけた。
ポロポロとこぼれ出す涙を彼は「ごめんね」と一言呟いてぬぐい取った。
「A、俺ね本当にそろそろやばいかもしんない」
「え、ねえやばいって?それって…そんな、まさか」
落ち着いて、とでも言いたげな苦笑を浮かべてFBは背中に回されていた腕を優しく握り締めた。
「俺いつも夜にさ、頑張って覚えるようにしてるの。でも」
寝てしまうとどうしてもいくらか記憶が飛んでしまう。
必死に思い出そうと頑張るけど手がかりもないから難しい。
もう自分の名前も忘れてしまいそうで、本人曰く息を忘れるのも時間の問題かもね、らしい。
「そんなだって!そんなの…寂しすぎる…」
まあまあと彼は私の手を握る力を少し強めた。
そっか。一番辛いのは体感している本人だ。だから逆に落ち着いていられるのかもしれない。
「うん。俺だって寂しいもん。だからね、Aに歌ってもらいたいんだ」
「うた…?」
ほら、Aって仕事とか身の回りの事とかさ、色々忙しいじゃん。でね、この前テレビでアルツハイマーの人が昔好きだった曲を聞いてちょっと記憶を取り戻してたんだよね。まぁヤラセかどうかは知らないけど。だから俺も本当にまずいときは曲を聞きたいんだけど、どんな曲が好きだったか覚えてないんだよね。そこで!
「今からAに歌ってもらう曲を一番好きな歌にするんだ!」
そう言う彼の目には一点の曇りもなかった。
…FBはどうなんだろう。
無くなる記憶がどんなに大事なものでも平気なのだろうか。
いや、絶対に平気なわけが無い。
でもこの落ち着きっぷりは?
彼に焦りなんて本当にあるのだろうか。
まさかもう最期を見据えているからなの?
考え出せばきりが無い。
ああ、私は
私がしたいことは
今の貴方に全力を尽くすことだ。
若年性アルツハイマー型認知症 ーーー fin
*妄想性パーソナリティ障害 by.ヒラ→←*若年性アルツハイマー型認知症ー上ー by.FB777
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作者名:歩く黒歴史製造機 | 作成日時:2015年3月9日 22時