9話 ページ10
まいどあり〜、なんて言う店員は今時いるのだろうか。自動ドアの開く音を背景に店を出る。
『うわっ、外ヤバッ…』
「温度差で風邪ひきそう」
一歩踏み出すと同時に襲ってくる熱気。冷房の効いた店内との寒暖差が激しく、ゆらゆらと揺れる陽炎に眉を寄せる。
そういえば、飲み物を買うのを忘れていた。自販機限定の炭酸でも飲もうかと研磨に声をかける。
『どーする? なんか買ってく?』
「いや、俺はいいかな」
それより、と研磨は一目散に日陰へと避難する。スーパーの印が描かれたレジ袋を漁り、お目当てのものを探し当てると、きらきらとした表情でそれを差し出してきた。
「食べよ、アイス溶ける」
歩きながら食べるのはお行儀がよろしくない。二人だけの道端、そんなお小言を言う人がいるはずもなく。夏限定の罪な娯楽を甘受するのであった。
『おっけーおっけー、』
___ちょん
『…あ』
バッ、と効果音をつけ思わず右手を引っ込める。
いつも通りに手を伸ばしたはずだった。
ただちょっと距離を見誤っただけで、ただちょっと空間の認識が甘かっただけで。
それは、至ってどこにでもある、事故とも呼べないような接触だった。
「どうしたの」
ミーンミンミン、ありきたりな鳴き声が少しの静寂を染めていく。
大げさに引っ込めた腕は取り繕うことなんてできなくて、それでも本当の気持ちを声に出して言えるわけでもなくて。
ただ、触れた辺りが。
『…あつい』
「いや、それはそうだけど。
もしかして熱中症?」
入道雲に影ができて、その体積を増していく夏の隙間。
あながち間違いでもない心配をする研磨に平静を装いながら、見慣れた棒アイスの包みを開けた。
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ねぎ - Rioさん» コメントありがとうございます!嬉しいです、励みになります〜!! (2022年9月27日 23時) (レス) id: 124a1bc937 (このIDを非表示/違反報告)
Rio - 今晩、凄く素敵な小説を見てびっくりしました!更新、楽しみにしてます!(/^_^) ( 初対面なのにゴメンナサイ!) (2022年9月24日 19時) (レス) @page16 id: 9824f121c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねぎ+ | 作成日時:2022年7月7日 21時