16話 ページ17
『私ばっかり振り回されてるのは不平等だと思う』
「どうした藪から棒に」
あれから無事に復帰した私は、今日も今日とて屋上にいた。休みの日にあったノート提出や小テストを済ませ、一段落ついた昼休み。紙パックのジュースを一気に吸い上げて文句を垂れる。
さて、今回は研磨がお留守だ。理由は簡単、一緒になって休んでいた間、あちらのクラスでは大きめの単元テストがあったらしい。特別教室で実施されることとなり、「よりにもよって昼休みって…」などとぶつくさ呟いてはいたが、クロによって半強制的に送り出されていた。
「で?
やっぱ研磨のことだろ、今の」
『…んー』
流石の幼馴染み、私のことなどお見通しだ。そうだと分かっていても肯定するのは気恥ずかしく、曖昧な返事になってしまった。
この曖昧さの意味もお見通しなのだろう、やはりニヤニヤしながら「Aにも春が来たなぁ…」としんみりしている。
『私ばっかり振り回されてるのはさ〜〜〜あ…』
今更『そんなんじゃない』なんて言ったって更に笑みを深めるだけだろう。それは癪なので、素直に悩みを打ち明ける。眩しいくらいの快晴に、正反対の筈の金髪猫を思い出してしまい、いよいよ末期だなぁと溜め息を吐く。
「振り回されてる、ねぇ…
ははーん、お前、昨日研磨になんかされたろ」
ビシッと、というほどではなくても、その大きい手がこちら側に向けられる。
『いや…
されたわけではないというか。』
実際、そこまでぐいぐい迫られているわけではない。
だからこそ、焦れてもどかしい。
ひょいと人を避わすのが得意なのだ、あの猫は。近くにいて、いつもどこか遠い。
核心に触れてみたいのと同時に、触れてはいけない気がする。踏み込んではいけないと線を引かれている感覚。
___例えば、"あの時"、本当に口移しをしていたら___
「おーい、Aさん?」
ドキッと肩が跳ねる。生きてますかー、と気の抜けた生存確認で思考が現実へ引き戻された。
余韻が抜けず、心臓が絶えずドラムを鳴らしている。身体の中心で主張する拍動が、うるさい。
「…まー、俺としても、幼馴染みが振り回されてんのは助けてあげたいからな」
振り回してんのも幼馴染みだけどな、と続け、おもむろに立ち上がりこちらに向き直る。
「おジョーサン、ここはひとつ、あなたに魔法をかけてしんぜましょう」
今世紀最大くらいに胡散臭いセリフに被せるように、五限の予鈴が鳴りだした。
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ねぎ - Rioさん» コメントありがとうございます!嬉しいです、励みになります〜!! (2022年9月27日 23時) (レス) id: 124a1bc937 (このIDを非表示/違反報告)
Rio - 今晩、凄く素敵な小説を見てびっくりしました!更新、楽しみにしてます!(/^_^) ( 初対面なのにゴメンナサイ!) (2022年9月24日 19時) (レス) @page16 id: 9824f121c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねぎ+ | 作成日時:2022年7月7日 21時