たとえ今日という日を忘れても ―ソードアート・オンライン― (ページ10)

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始めてからモンスターを100近くは倒し、昼食を摂る為に休憩していた時だった。
浅い小川の上に幾つも剥き出しになった1m前後の岩の1つに座りながら、どの岩が1番でかくてどの岩が1番小さいのか呑気に考えていた俺の耳に、コウリの声が聞こえた。

「…何で俺がこんな必死にレベリングしてるのか、教えてやってもいいよ」

NPCショップで買ったサンドイッチの袋を破きながら、相変わらず無表情のコウリはぽつりとそう言った。
それを聞いた俺は危うく同じサンドイッチの袋を取り落としそうになり――慌てて持ち直してから尋ねる。

「…教えられないって、言ってなかったっけ」

「……気が向いただけだ。
それと、1つ忠告しておく。…この話を聞けば、いつかお前は必ず後悔する」

「うん」

即答した俺にコウリは呆れた様な顔をして――内心では俺も自分に呆れていた――小さく話し出した。

．

「俺には――…探しているものがあるんだ。
絶対に見付け出さなきゃいけないもの…」

「――…迷宮区に？」

「話が早いけど、違う。
迷宮区は過程でしか無い。俺の求めているものは、もっと上に…この先にある」

そう言いコウリが上を見上げたから、俺も同じ方向を見つめる。
それは、この先もずっとずっと上に続いている城の、表面だ。あまりに長く、あまりに高く聳える城の頂点は霞んで見えない…。だが、コウリの視線はそこに向いているのだとわかった。

同時に、凄く驚いた。
コウリの探しているものは、ゲームをクリアする事とは関係無く第100層にあるのかもしれないし、現実で目を醒ましてから探さなければいけないのかもしれない。
それはわからないけど――…

コウリは、マップもフロアボスも興味無かったんだ。それは、過程でしかないから。

「必ず探し出して、真実を暴いてやるんだ…」

「――…そっか」

気付けば、俺は穏やかな気持ちで頷いていた。純粋に、コウリの事を知れたのが嬉しかった。
長らくこんな感情は忘れていた気がする。俺には誰かの傍にいる資格は無い、そう思って、独り冷たい毎日を送り続けていた。

――でも、コウリの事を知って、手助けが出来たなら。

俺はあの過去を、乗り越えられる気がした。

「…で、まだ離れない？」

「うーん、わからない事はまだあるからなぁ。
…取り敢えず、暫くはレベリングに付き合うよ」

俺がそう言えば、コウリは小さく微笑んだ。