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「遅ぇよ、キリト。つい話し込んじゃったじゃん」


コウリは頬杖を付きながらこちらを見やり意味ありげににやりと笑う。悪戯成功、といった顔だ。
カウンターの奥から豪快な笑い声が聞こえてきて、俺はそちらをキッと睨む。すると心外だと言うように苦笑する店主こと、エギル。


「おいおい、んな顔すんなって。何も変な事は話しちゃいないよ」

「…聞こえたぞ、独りぼっちだとか、鼻で笑う声とか」

「そりゃ全部コウリだ」


(こいつらいつの間に仲良くなったんだよ…)


俺はがくりと肩を落とすと同時に深い溜め息を吐いた。








コウリは俺を出し抜く為にエギルの買い取り屋に来た訳ではなく、それはあくまで偶々だったと言った。
アルゲードの街を見学していたらこの店を見付けて、店主と少し話したらお互いに俺の知り合いとわかって話し込んでいた、と…。


「悪かったって。そんな変な事は話してねぇし、安心しろよ」

「お前さっき俺の失態を…ああいいよもう」


お前はこんな事をする奴だったか、と声に出さずに問うた。――勿論、答えが返ってくる筈は無い。あの無気力さと今の明るさの違いを聞いてもきっと答えてくれないだろうから、俺はその問いを内にしまった。


「もう1時間近く経ってるし、早く行こうぜ」

「そうだな。 ――ッ…」


頷きカウンターから身を離したコウリが、1、2歩横にふらついた。俺はつい手を伸ばしたが――その前にコウリは体勢を立て直した。


「…おい、平気か?」

「まさか寝不足じゃあねぇだろうな?この世界でそれは地味に自殺行為だから、やめとけよ」

エギルの言った事は大袈裟でも何でもなく、真実だ。VRMMOはゲームだが、長時間の戦闘は思っているより疲労を促すし、何よりこの殺伐としたデスゲームだ、尚更の事。
睡眠を怠る事は、自分の首を絞める事以外の何物でもない。


眉を寄せ心配する俺達に、コウリは小さく笑みを浮かべながら首を振った。


「…平気だって。ちゃんと寝たし、まだ眠気が取れてないだけだ」

「…ならいいけど。無茶はするなよ?」

「はいはい」


エギルに別れを告げ、軽口を叩きながらアルゲードを歩く。
完全にいつもの無表情に戻ったコウリの横顔を見ながら、俺は何か引っ掛かるものを感じていた。











それを感じていた筈なのに……どうして俺は、気付けなかったのだろう。

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羽毛 - 面白かったです。続き期待して待ってます。 (2013年11月19日 14時) (レス) id: 58739b6e62 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ワタリ鳥 | 作成日時:2012年12月18日 1時

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