06 side・A ページ32
小学5年生の春。
それが俺の人生の転換期だった。
「国見英さんはαと診断されました」
α。
人口的にもごく少数であらゆる面で世間から優遇される、αが俺?
淡々と告げる医師の言葉を飲み込めるほど、俺はまだ大人じゃなくて。
歓喜の声をあげる母が、どうしようもなく恐ろしい生き物に思えた。
中学一年生の春。
両親が離婚した。
普通の子供として俺を育てようとした父と、αとして英才教育を施そうとした母。
仲の良い両親の仲を引き裂いたのは、俺の教育方針だった。
「あ、あ」
なんで?
俺はこんなこと、何一つ望んではいなかったのに。
ぺたりと床に座り込んで。
指先の震えを抑えるように口の中に甘いキャラメルを放り込む。
いまだやまない父の怒鳴り声から耳をふさぎながら、俺はセカイが崩壊する音を聞いた。
・
・
そのころから俺は、笑えなくなった。
・
・
中学一年生の秋。
母が連れてきた、“俺と結婚する人”。
「許嫁なんて不安だったけど、英君がかっこいい人で良かったぁ」
満面の笑みを浮かべ、俺の腕にぶら下がる女も全部、全部。
怖かったのだ。
この人たちは、一体何を見ている?
「よかったわね、英! これで将来は××企業の社長になれるわ!!」
ねえ母さん。
貴方が見ているのは本当に俺なの? “国見英”なの?
何かが違う。
うまく言えないけど、絶対。
嫌だ、怖いよ怖い。
唯一安らげる場所が体育館だった。
「やっほ、国見ちゃん」
「一年に絡むんじゃねえクソ川!」
「よ、国見―レシーブ練はじめっぞ」
「・・・はい」
これまで通り俺は、自然な笑顔を作り出せずにいたけど。
でも、あの空間は俺にとって心地よかった。
そして、中学三年生最後の試合。
「もっと高く飛べ・・・俺に合わせろ、勝ちたいならっ!!!」
チームはもうぼろぼろになっていて。
バレーボールさえも、俺のことを拒絶した。
漠然と思った。
こんなに苦しくなるくらいなら、何にも本気にならないようにしよう。
自分を偽り続けよう。
ーーーーーーーーーそうやって、生きていくはずだった。
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sukai(プロフ) - 鎖奈さん» 了解しました。 (2015年2月6日 22時) (携帯から) (レス) id: 4118f4027b (このIDを非表示/違反報告)
鎖奈 - sukaiさん» そうおっしゃっていただけて、とても嬉しいです。ピンク要素の少ない、暗くて重いだけのオメガバースに需要があると思ってなかったので・・・。新しい短編集でもよろしくお願いします。 (2015年2月6日 22時) (レス) id: a4e6000211 (このIDを非表示/違反報告)
sukai(プロフ) - この作品とても好きです(≧∇≦)更新楽しみにしてますo(^-^)o (2015年2月6日 19時) (携帯から) (レス) id: 4118f4027b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鎖奈 | 作成日時:2014年11月22日 20時