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授業が終わって、校内を無意味に歩き回って、
練習室に向かおうとしたけどなんだかそれはそれで足が進まず、
結局一人でカラオケなんかいったりして、でも気がかりで、すっかり暗くなった道を歩いていた。
季節はもう夏で、僕が上京して、練習生になって3か月かそこらが過ぎようとしていた。
夜をコンビニで済ませて、もう帰るかと思ったけど、今度はAのことより自分が練習していないことが気になって、結局練習室に向かった。
毎日絶対なんだかんだで練習してるんだからえらい。
けど、他のメンバーよりスタートが遅れている分、努力しなくてはいけないのは分かっていた。
「……あれ」
練習室の前まで来て、中から音がするのに気付いた。
「…A」
僕はドアノブに手をかけて、勢いよく開けようとしたけど、
やっぱりちょっとためらって、静かに、少しずつドアを引いて中に入る。
Aは初めて会ったあの日よりももっと高度なダンスを練習していた。
僕はさっきまで毎日練習していることで自分を褒めたのが恥ずかしくなった。
僕は何も進んでいなかったからだ。
後ろの方でそのダンスをじっと見て、「ああ、負けてる」とぼんやり思っていた。
ふいに音が止まって、僕ははっとした。
「自分が助けてあげたつもり?」
最初はなんのことを言われているか分からなかった。
「ジミンありがとって、かっこよかったって言われたいんでしょ」
それが、今日のあの事件を指しているって気づまで時間がかかった。
Aは鏡越しの自分をきっと睨むように見ていた。
「それとも、なんにも出来なくてかわいそうだねって、」
そこまで言って、僕はAの声が震えているのに気付いた。
「A、ちがうよ」
「違わない」
小さな声で言い返されただけなのに、僕は次の言葉が出なかった。
「俺が助けてあげなきゃなんにもできないって、思ったでしょ。
そういうのが一番迷惑。
私、あんたのこと、ほんっと大嫌い」
気が付いたら、Aは練習室にはいなかった。
僕は茫然と、そこに残されて、何も感情のない自分の顔をただ鏡で見るだけだった。
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作者名:ヤコ | 作成日時:2019年1月9日 17時