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彼と一緒に行動し始めて数ヶ月も経つ頃には、もうすっかり 我社の顔 と太鼓判を押されるほどの成績を有した彼は
噂すら キムソクジンだから。 というあっけらかんとした結論の元話題の中心に身を置くこともあまり無くなっていた。
その代わり、あの日涙を流して私にキムソクジンへの愛をこれでもかと吐露した彼女が寿退社するという話題で持ち切りだった。
別れの挨拶の際、社員一同からと大きな花束を あろう事かキムソクジンが彼女に手渡すシーンでも
彼女は幸せそうに頬を染めて笑っていた。
人生ってこんなにも簡単なものなのか、と思うしか無かった。
彼女が退職したあとも、お昼ご飯のおかずにもならないレベルの小さな噂は耳に舞い込む。
箸にも棒にもかからないそんな話題を聞くことが憂鬱になってきた頃
そろそろキムソクジンの教育係の任期が解かれると課長から通達された。季節は真冬になっていた。
遅いくらいだ。なんせ既に彼は私よりも数字を持っているのだ。
年明けからは1人で営業に行くように、と言われたキムソクジンはへらりと笑い、寂しいですねと言いながらこちらを見る。
到底そんな顔をしていないくせに。
「いやぁ、寂しいな」
営業車の中でもう一度そう言いながら伸びをする。
「そう?私はせいせいするかな」
「またそんな寂しいこと言って」
いつしかこんな冗談でさえ言えてしまうようになっていた。
しかしそれ以上に関係性が変わることはなく
せいせいする、という程ではないが これで本当に物理的に距離を保つことが出来ることに少し安堵している自分がいた。
「僕は本当に寂しいと思ってますよ」
「そう?ありがとう」
運転席で前だけを見る私を見つめる視線を感じる。
「ねぇAさん」
「ん」
「独り立ちのお祝いに欲しいものがあるんですけど」
「図々しいね 何」
「敬語、使わなくてもいい?」
その声色は少しばかり熱を持っているようで 瞬時に脳内に警告音が鳴った気がした。
「何で‥‥」
「だって僕の方が年上だし」
理由を問うと途端にいつものような調子で笑う。
「別に‥‥いいけど」
「じゃ決まり」
そもそも私の了承を得る前、提案の時点で敬語を捨てている事はさておき
未だ鳴り止まない警告音を聞きながら
運転に集中しようと懸命にハンドルを握るしか無かった。
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K(プロフ) - sunnyさん» コメントありがとうございます!ジンくん目線!凄くいいですね。整理が着いたら書いてみたいと思います!本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。 (2021年10月15日 20時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
sunny(プロフ) - すごいどストライクの作品で大好きです💜!この作品のジンくん目線?の内容もすごい気になります!これからも大変かと思いますがお話頑張ってください!! (2021年10月15日 18時) (レス) @page37 id: 5ee4f4580f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - びぃんさん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉を本当にありがとうございます。こんな最低の男にしてしまって申し訳ないですが気に入っていただけて良かったです! (2021年10月11日 18時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
びぃん(プロフ) - いやめちゃくちゃ好きです何だこれは……すっごい昂りましたありがとうございます神様仏様K様…… (2021年10月11日 18時) (レス) @page37 id: 57661bab90 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - ほまさん» コメントありがとうございます!激アツ、凄く嬉しいです!風景を思い描いていただけて良かったです。これからも少しずつですが書き進めていこうと思いますのでまたご覧頂ければ幸いです。 (2021年10月11日 0時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2021年10月2日 19時