13 ページ13
-----
彼女はとてもあっさりした女性だった。
キムソクジンが会社を辞めてしまったことを他の社員に慰められても
｢まぁ、彼が決めたことだからね｣
と悲しむ様子ひとつ無い。これが恋人たる余裕なのだろうか。それを抜きにしてもいつも冷静で仕事の出来る女性だ。以前キムソクジンと関係を持った後別の相手と寿退社していった彼女と同じ経理部に配属されているその女性は会社からも重宝される存在だった。
恋人がいることを知った時、自分はどんな感情になるのか不安に思っていたが、案外飲み込めて 彼女とならお似合いだな と思う心の余裕すらあったのが不思議だった。
しかし、聞けば入社して間もなくから付き合いが始まっていたというので、相当肝の据わった女性だということを知って納得した。
相手が彼女だからそう思えるのだな、と半分尊敬の念を抱きながら時折聞こえてくるキムソクジンのその後の話を思い出のスクラップにするのは少々楽しくも思えた。
なんたって安全圏から彼を知れるのだ。
ひとつもリスクを負わずに。
ただ、キムソクジンの姿を直接見ることが出来ないことだけは うら悲しい現実だった。
そんな風に過ごしていると、次第にキムソクジンなんて初めから居なかったのではないかとすら思えてくる。
それもそうだ、あんな見た目の人間がこんな小さな文房具の卸業者なんかで働いていたなんて有り得ない。
徐々にその名前すら聞く機会が減っていく毎日で 本気でそんな馬鹿みたいなことを信じ始めていた。
いつもと変わらず、味も素っ気ない一週間を過ごして やっと金曜日の業務を終えた時 突然同期に
｢飲みに行かない？｣
と誘われた。
例に漏れず特に予定のなかった私に断る理由もなく、会社近くの たまに顔を出す程度の小料理屋に足を運んだ。
ある程度酒が進み、頬を染めた同期が久しぶりにキムソクジンの名前を口に出した。
｢キムソクジン覚えてる？｣
｢覚えてるよ、そんなに前の事じゃないでしょ｣
｢辞めてから2ヶ月？3ヶ月くらいかな？｣
｢そんなもんかな｣
キムソクジンを覚えているか、と問いながら歯切れの悪い物言いをする同期を不思議に思いながら
｢で？キムソクジンが何？｣
と話の先を催促すると
｢実は最近連絡とっててね｣
と、どこか鬱陶しそうに眉を潜める同期を見て
久方ぶりに心臓がチリっと焦げた音がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 341人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
K(プロフ) - sunnyさん» コメントありがとうございます！ジンくん目線！凄くいいですね。整理が着いたら書いてみたいと思います！本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。 (2021年10月15日 20時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
sunny(プロフ) - すごいどストライクの作品で大好きです💜！この作品のジンくん目線？の内容もすごい気になります！これからも大変かと思いますがお話頑張ってください！！ (2021年10月15日 18時) (レス) @page37 id: 5ee4f4580f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - びぃんさん» コメントありがとうございます！嬉しいお言葉を本当にありがとうございます。こんな最低の男にしてしまって申し訳ないですが気に入っていただけて良かったです！ (2021年10月11日 18時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
びぃん(プロフ) - いやめちゃくちゃ好きです何だこれは……すっごい昂りましたありがとうございます神様仏様K様…… (2021年10月11日 18時) (レス) @page37 id: 57661bab90 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - ほまさん» コメントありがとうございます！激アツ、凄く嬉しいです！風景を思い描いていただけて良かったです。これからも少しずつですが書き進めていこうと思いますのでまたご覧頂ければ幸いです。 (2021年10月11日 0時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2021年10月2日 19時
