織田 作之助【義兄弟】 ページ30
扉が軽く開く音。
重いものを引き摺るようなすり足の音。
その音の主を視界におさめ、僕はにこりと微笑む。
「おはよう、
少し時間を空けた後、相手も「おはよう」と言って椅子に腰掛けた。
僕とは似ても似つかない赤い髪。
外では見れない、無精髭を生やした顔。
「早起きだな」
彼は顎を触って言った。
どうやら心配されているらしい。
「遅く帰ってくる作兄に比べたら寝れてるよ」
「…なら良い」
安心したような笑みを浮かべる作兄の前に珈琲のカップを置き、傍に砂糖とクリームの壺を添える。
そして彼の正面の椅子に腰掛けた。
「朝ご飯、用意できてるけどまだいい？」
「…減るには減ってるが、今食べたら昼前に腹が空きそうだ」
「それもそっか」
驚くくらい、穏やかな早朝。
これが手に出来ているのも目の前の彼のお陰なんだと、しみじみ思う。
彼との付き合いは8年程。
殆ど家族みたいなものだ。
とある抗争に巻き込まれて孤児だった僕を、作兄が拾ってくれた。
当時は僕も何かと手伝ったものだけど、今は僕だけが昼の世界で働いている。
作兄は、未だ夜に生きるままだ。
それでももう、人殺しはしていないのだけど。
「作兄ならもっと良い所に行けるのに」
なんて彼の仕事について愚痴をこぼす。
作兄は困ったような顔をしていた。
「やりたいことがある」
「小説家でしょ？でもさぁ」
「人を殺しては人を書く人間に値しない」。
彼は昔、僕にそう語った。
夢を、目標を語る顔は、美しかった。
……その顔に、僕はずっと恋をしている。
けれど。
「大事なことがわかってるなら、身を守るために殺したって誰も文句は言わないよ」
「……そういう訳にはいかない」
そう言って珈琲カップを傾けた。
妙に長く感じる沈黙。
割って入ったのは、作兄だった。
「…人を書く依然に、厄介事にお前を巻き込む訳にもいかないだろう」
俺なら大丈夫だ、と微かに微笑んで頭を撫でられる。
「不安にさせてすまない。これは俺の我儘だ」
…昔から、この大きい手が好きだった。
撫でられた箇所がぽかぽかと暖まるようで、
眠れない夜も安心して眠れた程だ。
「A。俺はお前が大切だ」
「分かってくれ」
珍しく踏み込んだ言葉に、思わずドキッとさせられる。
きっと彼にとって、僕は弟のようなものなのだろう。
他の孤児たちと同じような、庇護対象なのだろう。
それでも。
それでも、彼のその微笑みが、嬉しかった。
織田 作之助【義兄弟】2→←フョードル・ドストエフスキー【石の檻】
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胡桃バター(プロフ) - りんごあめさん» リクエストありがとうございます！執筆までしばらくお待ちください (11月10日 1時) (
レス) id: 55a2e79d32 (このIDを非表示/違反報告)
りんごあめ - 森さんとのお買い物デートが読みたいです！ (11月3日 18時) (レス) id: bd46442a68 (このIDを非表示/違反報告)
マーガリン - ありがとうございます！！ (2023年4月4日 8時) (レス) id: 7ba1c946a0 (このIDを非表示/違反報告)
胡桃バター(プロフ) - マーガリンさん» リクエストありがとうございます！慣れないキャラではありますが、精一杯書かせていただきますので、しばらくお待ちください。 (2023年4月3日 22時) (レス) id: ed4c5148d7 (このIDを非表示/違反報告)
マーガリン - 小栗さんのヤンデレってできますか？ (2023年4月1日 8時) (レス) @page33 id: 7ba1c946a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡桃バター | 作成日時：2016年6月19日 22時
