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名残惜しい ページ44

太宰の頬に雫が数滴溢れる。
そこで初めて、自分が泣いているのだと気づいた。
頬に流れる生暖かい液体は止めたくても止まらない。

ボクは何がしたいんだろう。
太宰は違うと言っている。太宰は四年間ボクを探してくれていたことも知っている。

なのに何故泣いているのだろう。



「……A、泣いてるの?」

「…泣いてない」



優しい声でそう言うから、余計に涙がこぼれた。
ボクは涙を拭って太宰の上から退き、隣に座り込む。



「えっと…とりあえず君は帰ってくれるかな」



先程から黙り込んでいた女性に声をかけると、無言で背を向けた。

しかしその表情は悲しげだった。



「すま…」
「謝らなくていいよ、私が悪いんだから」



そう言ってボクを正面から抱きしめた。
そして嗚咽が溢れるボクの背中をゆっくりとさする。「大丈夫だよ」と、そう繰り返して。



「ごめんね」

「…君がしてない事くらいわかってた」

「…うん」

「でも……他の女が君に触れているのは、やっぱり嫌だ」



かつて太宰の前で涙を流したことがあっただろうか。
ましてや嫉妬で頬を濡らす事などなかっただろう。



「ボクは……君が、その……好き…だから
君がいないとボクはもう…生きていけない」

「うん、私もだよ」



ボクは太宰の背中に手を回した。
そしてもう頬は濡れていなかった。

太宰が優しい声で呟けばそれだけで愛しい。

涙も止まるし心が温かくなる。
好きだと実感する。


…だが、




「…………最悪だ」

「ええっ、このタイミングで?」



「人に涙を見せた挙句弱さを全面この馬鹿に見せるなんて一生の恥だ。もう生きていけない。」

「さっきは私なしじゃ生きていけないって」
「うるさい」



ああ、ダメだ。動きたくない。
このまま抱き締められていたい。



「そう言えば、国木田くんに言われて私を探しに来たの?そろそろ戻らないとまずいんじゃ…」



あ、手が離れた。…名残惜しい。
もう少し触れて居たかった。



「……ちょっとA、そんな顔しないで。私だって名残惜しいんだから」

「なんの話だ」

「名残惜しいって思ってそうだな〜って」



「ッ、そ、そんな事思うはずないだろう!」



声を荒げたボクとは裏腹に、太宰は笑みを浮かべた。



「じゃあ帰ったらいっぱい甘やかしてあげるね」
「結構だ」



でもボクの頬はきっと緩んで居たように思う。

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紅月天音(プロフ) - 桜紅葉さん» 本当にありがとうございます!ご期待に添えるよう頑張ります! (2017年2月26日 22時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - お返事ありがとうございます。楽しみにしています。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年2月26日 16時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 桜紅葉さん» ありがとうございます!番外編の件も個人的に考えております。一応まだ終わらないつもりなので引き続き応援よろしくお願いします!! (2017年2月25日 18時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - この話サイコーです。その後談で夢主と太宰さんの番外編が見たいです。 (2017年2月25日 13時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - あらりぶさん» ありがとうございます!不定期な更新ですみません…。もっと早くお話を届けられるように頑張ります! (2017年1月28日 15時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅月天音 | 作成日時:2017年1月17日 21時

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