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華を散らせし白の指 ページ8





廊下を歩くAの小さな手の中には、可愛らしいリップクリームが収まっていた。

少し駆け足で部屋へと入り、Aに合わせて誂えられたドレッサーの前へと駆け寄る。

キャップをとり、桃紅色(とうこうしょく)のそれを まじまじと見つめた。
紅と桃の間である、柔らかな色合い。

これを付ければ 少しは大人の女性に近づけるだろうか、と。
心の内で思いながら、自身の柔らかな唇へと滑らせる。

そっと、濃くなり過ぎぬように薄く。

(いろ)が乗せられると、その白い肌に映える小さな華がそこにあった。

ビル内で見る綺麗な女性達のように、自分も近付けただろうか。
何処が弾む胸を抑え、僅かに頬を紅くする。


これを太宰に見せたらどんな反応をするのか。
はたまた 褒めてくれるだろうか、喜んでくれるだろうか。
想像するだけで ドキドキしてしまう。

自身の想いが昂るのが Aにも分かっていた。

鏡を見て髪を梳かし、片方だけ耳にかける。
幼い名前には、それだけで大人の女性のような気分になれるのだ。

扉の向こうで音がした。
太宰が執務室に戻ってきたのだろうか。

可笑しな所が無いかよく確かめ、扉を開けた。
レースのあしらわれたワンピースを揺らして 太宰の側へと向かう。


『だざい…』


くい、と外套の裾を引くと 彼は振り向いた。

刹那 驚いたように目を見開いたものの、直ぐに細め Aを抱き上げる。
観察力の高い彼なら 一瞬で気付くのも納得だ。


「リップかい?」

『うん……きれい…?ここ(ポートマフィア)の女の人たちみたいに なりたくて……』


背伸びをしたいお年頃、とでも言おうか。
着物の時動揺、好いている相手によく思われたいのは当然の事だろう。


「……君は、」


指の腹で、優しく華を散らす。
牡丹の様な甘やかな色は消え、本来ある桜色が元に戻り 咲く。


「何も付けなくても、一番可愛いよ」


嗚呼、何故だろうか。
付けていた時は褒められたい喜ばれたいと思っていたのに、こうされてしまうと 彼に見て貰えるだけで 十分心が満たされてしまうのだ。

白に届かぬ手→←星の煌めきを閉じ込めて



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紅月ミレー - まふ(元月瀬)さん» 太宰治様ですね(*^□^*) 了解です(*´∀`)♪ (2021年8月24日 18時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
まふ(元月瀬)(プロフ) - 追記しましたがお相手だざさまですー (2021年8月22日 22時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - まふ(元月瀬)さん» じゃあ、中也様が孤児の幼女主を拾い、その日以来すっかりシスコンで、デレメロのをお願いします(v^ー°) マフィア全員の癒しです、勿論探偵社もです(〃ω〃) (2021年1月23日 11時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
まふ(元月瀬)(プロフ) - 紅月ミレーさん» ありがとうございました♪紅月ミレーさんには初期からお世話になりました、ありがとうございます。作品はまだ決めた無いので絶対に作れるとは言いきれませんが、もしご案があるならお聞きしたいです♪ (2021年1月23日 10時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - まふ(元月瀬)さん» 黒太宰治様と夢主ちゃんの、二人きりの結婚式滅茶苦茶良かったです(〃ω〃) 最終回で寂しいですが、此れからも頑張って下さいね(o^−^o) あ、リク作品は有りですか(´・ω・`)? (2021年1月21日 21時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まふ | 作成日時:2020年6月30日 20時

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