06*人食い虎 ページ7
空が少し暗くなり始めた頃、
私達三人はケーキ屋の前で解散した。
『少し遅くなっちゃったかな…』
太陽が微妙に隠れ始めている。
茜色の空の向こう側が段々と黒に染まっている。
店を出る直前に確認した時間は六時前…
『……急ごう』
特別人通りが少ない道ではないが、
ドクンと心臓が跳ね上がる。
駅にさえ行ってしまえば、後は大丈夫…
心なしか早足になり最寄りの駅までの道を歩く。
そのせいなのか、ドクン、ドクンと心臓の音が早鐘を打っていく…
大丈夫、大丈夫…まだ、大丈夫…
川沿いの道のすぐ先に駅はあり、それが見えた瞬間ホッと息をついた、
その時だ…
グルルル…
『ッ、え？』
どこからともなく聞こえた獣の呻き声。
足早に進んでいた足が自然と止まってしまった。
人がまばらに行き交う中で、足を止めたのは私だけじゃなかった。
ーーその虎が通った畑や建物はみーんな滅茶苦茶になってるらしいよ？
ーーなんか段々こっちに近づいて来てるっぽいしねー
『う、そ…』
それを見た瞬間、頭に響いたのは昼間の二人の会話。
薄暗くなり始めた道の中で、
その白い毛並みは少し顔を覗かせた月の光に反射し、
怪しくも美しいとさえ感じた…
「虎だァッ！」
「人食い虎が出たぞォッ！！」
『ッ！ キャッ！』
目の前にいるのは間違いなく虎だ。
突如現れた虎に、道行き人々は混乱し走り出す。
その波に流され地面に転がってしまった。
グシャリと何かが潰れた音、
人々の叫び声が遠くなる。
起き上がろうとした時、急に物凄い力でまた地面に背中を打ち付けた。
『…ッ、ひっ！』
「グルルルゥ…」
目の前にあったのは白い虎の顔。
お腹を押さえていたのは虎の足だ。
重い、痛い…おなかの圧迫に口から物を吐き出しそうだ…
けれどそれ以上に体を支配するのは恐怖。
『(恐い、恐いッ…)』
口から見える鋭い牙が喉を掠める。
カタカタと情けなく震える手足は言うことを聞いてはくれない。
どうしよう、どうしよう…このままじゃ、
最悪の未来にギュッの目を瞑り、さっきまでの楽しかった時間を恨めしく思った。
……こんなことになるなら、
こんなことに、なるなら…早く帰っていれば良かった…
ケーキ屋なんかに行かずに、
真っ直ぐ帰っていれば良かった…
そう思って涙を流そうと、
もう遅かったのだ…
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 982人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゴーゴリンゴ - 続き気になりすぎて夜しか寝れません!!!更新待ってます！ (2022年8月14日 14時) (
レス) @page38 id: 5a52c0f3ec (このIDを非表示/違反報告)
ノイズ - モブの設定どこ行きましたwww面白いです。更新頑張ってください (2019年10月22日 13時) (レス) id: 4f45d6607d (このIDを非表示/違反報告)
すーがく - 面白いです！！更新、楽しみにしてます！ゆっくりでいいですから！澪菜さんの作品読めるだけで幸せなので！ (2018年1月10日 12時) (レス) id: 9fb1372198 (このIDを非表示/違反報告)
澪菜(プロフ) - かさかさスライムさん» 返信遅れてすいません！もう本当にありがとうございます！自分のペースでなんとかやってみます！ (2017年7月31日 7時) (レス) id: 9b7e5b62dc (このIDを非表示/違反報告)
澪菜(プロフ) - 八雲さん» 返信が遅くなってしまいごめんなさい！ありがとうです、全然更新できなくてへこんでましたが元気出ました！ (2017年7月31日 7時) (レス) id: 9b7e5b62dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：澪菜 | 作成日時：2017年1月4日 23時
