ひな祭り/雨音きこ ページ1
「灯りをつけましょ、ぼんぼりに」
雛人形の付属品、ぼんぼり飾りのスイッチをカチリとして灯りをつける。
「お花をあげましょ、桃の花」
同じく付属品、プラスチックの桃の花を飾る。
「五人囃子の笛太鼓」
各々、ほんの小さな笛や鼓を抱えている可愛らしい人形に目をやる。
「今日は楽しい雛祭り」
微妙に暗い曲を口ずさみながら見るスーパーの雛人形はえらくちゃちく見えてしまう。
どこもかしこもプラスチックだらけ、電気だらけ。しかし、それを見ている私の姿もミニスカート。
全く日本の伝統芸能を馬鹿にし過ぎている。
「ねぇ、なんでこんなにお内裏様とお雛様の顔は明るくないんだろうね」
恐らく後ろで暇そうにスマートフォンをいじっているであろう彼に声をかける。予想通り、ピコピコとした電子音と気だるげな声が返ってくる。
「さぁ?戦略結婚とかじゃない?」
「えー、なにそれー?」
だけど彼の考えもあながち間違いでないかもしれない。
「そっかー、じゃあ、二人は幸せじゃないのかな?」
「急にどうした?」
「いやね、お雛祭りって女の子の幸せを願うお祭りでしょ?なのに、お雛様が幸せじゃないなら駄目なんじゃないかなー、と思ってさ」
本当に雛祭り好きだな、と彼が苦笑する。彼と迎える雛祭りはもう三回目を迎える。実際は、彼が私の彼となる前まで数えると私の年の数と同じになるだろう。
「まぁ、仕組まれたレール上を行ったら必ず不幸になる訳ではないだろう、きっと幸せなんじゃないか?」
「そうかなぁ?誰だって大好きな人といればもっと可愛い顔すると思うよ?」
ほらこんな風に、とにっこり微笑みながら後ろを向く。
「ね、お兄ちゃん?」
「そろそろ、お兄ちゃんって呼ぶの止めろ。名前で呼べ」
「でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだからさ」
「それはそうだけどさ…」
お兄ちゃんが大きく溜め息をつくのでまたさらに笑う。
「雛人形みたいにお兄ちゃんとずっと一緒にいられたらいいのに」
私の小さな呟きは、誰にも届くことなく空に消えていく。
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作者名:文芸部 x他6人 | 作成日時:2018年3月1日 20時