病室の憂鬱/短編/Patricia ページ4
「お休み、病人」
ぶっきらぼうな声で、
看護婦が病室の仕切りをしめた。
病人である俺は、それを虚ろな目で流した。
別にこの無愛想な看護婦を引き留め
ようとは思っちゃいない。
「お休みなさい、茜さん」
柔らかに笑う事も出来ない俺。
筋肉が硬直してしまったのだ。
「………」
仕切りは鮮やかな布一枚。
おまけにベッドランプは付いたままだった。
病人の世話をしない看護婦なんて
聞いたこと無いが、それはそれで面白い、
と白い天井を見つめていた。
看護婦の顔が、いつか見れたらいいな
と思うようになったのは、一週間前だった。
『宜しくねぇ、葵君』
看護婦によく居るのは、
こういう甘ったるい声を出す人。
この声、この扱いはいつまで
たっても馴れなかった。
だから、このぶっきらぼうな看護婦になって
心底俺は嬉しかったんだと思う。
「___ねぇ、茜さん」
天井を見つめたまま、俺の口が開いた。
発音がうまくできているか分からないが、
とにかく彼女に伝わればいいと思った。
何にせよ、この口で“あかね“と言うのは
かなり難しいのだった。
「__何よ、病人」
奥で書類を纏めていたのだろう。
茜さんのカーテンを捲る音が聞こえる。
カーテンの隙間から、月光が俺を差していた。
青白い。俺の体も同じ色だった。
「茜さん”は__何になりさかった?」
発音が鈍る。簡潔に纏めたい結果がこれだ。
茜さんはペンでも走らせているのだろうか、
さらさら、と音を立てた。
「__何にも。生きてればそれで満足」
実に、面白味が無い返答だった。
生きていれば満足__誰だって一緒。
「そういうあんたは何になりたかったのよ」
あかねさんがたつ。
おれ?とすこしわらいかけた。
「おれも、いきていればまんぞくだったんだけど」
もう
タイムリミットが、きたんだよ。
あかねさん。
_______病室の憂鬱 Patricia
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作者名:文芸部 x他11人 | 作成日時:2017年12月15日 21時