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アタシ/短編/二代目北斎 ページ15



 「芋虫さん、芋虫さん。貴方は何処に居て何をしてるの?」

 「またその質問? 俺は此処にいて水煙草を吸ってるよ」

 「……大悟してるのね」

 「アンタ、そんなことを皆に訊いて回ってるのかい?」

 はだけたままの服を着た芋虫さんが、呆れたように水煙草を吹かし始めたので私は尋ねてみた。そうしたら案の定昨日と全く一寸も変わらぬ答えを出したものだから、私はほっとして、大悟してるなんて変なことを言ってしまった。

 「それじゃあ次は此方から質問だ」

 芋虫さんはアタシのことを全く見ずに、疲れたのか足を組み換えて口から水煙草を離してその精端な顔に微笑を湛えながら言った。

 「アンタは何処に居て何をしてる?」

 芋虫さんはいつもこうだ。狡い。その一言に限る。アタシが答えられないのを知っていてこんな意地悪いことを言う。だからアタシ、つい、大きな目を餓えた獣のようにギラつかせてこう答えてしまったの。

 「アタシは此処に居て、芋虫さんとお話ししているの」

 そう言っちゃったらもうアタシの敗け。芋虫さんは細い目を更に細くして薄い唇に弧を描きニヒルに笑って「ほォ。大悟しとる」って楽しそうに言った。

 アタシは悔しいからアタシの得意なスポーツで芋虫さんと勝負するんだけれど、でも、如何しても勝てない。いつもアタシの敗け。

 「三月ウサギさんから、芋虫さんはサッカーが苦手って訊いたのに。狡いわ、狡い。ちゃんと苦手じゃないと狡いわ」

 アタシは芋虫さんの乗っている茸より一畳ほど狭く小さい茸の上で足をばたつかせた。こんなに小さな子供のように足をばたつかせたのは久し振りかもしれない。アタシくらいの子がばたつくと言ったら、プールの授業くらいだから。

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作者名:文芸部 x他11人 | 作成日時:2017年12月15日 21時

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