身長差、一センチ。/短編/ヨシュア ページ8
*
身長差一センチ。
その一センチに、特別な感情を抱くのは何故だろう。
ほとんど変わらない高さだ。だけど、治らぬ猫背と靴底の関係で、案外見上げなければならない。
別に、猫背は治せばよいのだ。あまり好きじゃないが、同じような厚めの底の靴を履けばいい。
それだけ、ただそれだけなのだ。
──けれど、それをしないのは。
にやっと笑って見上げれば、黒縁眼鏡の奥の瞳を泳がせて、真っ赤な顔で私を見下ろす恋人がいた。
嗚呼、可愛いなぁ。愛しいなぁ。
その馬鹿みたいな表情。
ニヤニヤと笑ってやれば、恋人は「あーもう」とガシガシと頭を掻いて、かと思ったらガバッと私を捕まえ抱きしめてきた。
身長差一センチ。
唇の高さの差も一センチ。
相手の胸ぐらを掴んで、
すなわち一センチの背伸び。
してやったり、と笑いながら恋人の眼鏡を奪って、また背伸び。
「だから今度は君が屈んでね、章太郎?」
そう言うと、彼は途端に赤面して私を放した。
*
ぐい、と胸ぐらを掴まれたかと思ったら、そのまま唇が重なった。
驚いて口をぱくぱくさせながら見ると、彼はニヤッと笑って俺を見上げていた。
ああ、可愛いなぁ。ずるいなぁ。
そのままニヤニヤし続ける彼女に耐えきれなくなり、俺は頭を乱暴に掻いて、彼女を抱きしめる。
身長差一センチ。
唇の高さの差も一センチ。
背伸びの高さも一センチ。
その一センチをキープするためだけに牛乳を飲み始めたのは、俺の秘密だ。
不意に眼鏡を奪われた。あっと驚いている間に、もう一度唇が重なる。
やっぱり彼女は背伸びしている。
「今度は君が屈んでね、章太郎?」
耳元でそんな声出されたら、ドキドキしない訳無いじゃないか。
俺は慌てて彼女を放した。
それが、二年前の話。
身長差一センチ。
その一センチに、特別な感情を抱くのは何故だろうって?
そんなの決まってるだろう。
離れてしまった彼女の肩を再び抱き寄せて、強張る彼の背をぽんぽんと撫でて、少しずつ少しずつ距離を埋めていくのだ。
約束通り俺が屈んで。
「もう何処にも行かせないから覚悟しろよ? 雪乃」
そう言うと、彼女は幸せそうに笑った。
*
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水素化リチウム@元.えーた。指示薬love(プロフ) - お煎餅さん» ありがとうございます。次号も頑張らせて頂きます (2017年12月4日 16時) (レス) id: 7f312343b0 (このIDを非表示/違反報告)
お煎餅 - 水素化リチウムさんのお話切なくて好きです。次号も楽しみにしてますね。 (2017年12月4日 10時) (レス) id: 22c60aa3a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文芸部 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月19日 7時