星が綺麗ですね/短編/二代目北斎 ページ3
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片想いをして、もう何年目になるんだろう。
橋元心海は読みかけの小説に栞を指して、ふっと息を吐いた。何度目になるのだろうか。心海は数ある彼の作品の中でこれが一番好きだった。
何ページにも渡る恋と母娘の物語。走馬灯のように流れ変わる時代と常識、結ばれぬ恋に身を馳せた女達の切ないストーリーに、おおよそ百年前に書かれた作品だと心海は到底思えなかった。今も昔も外見は目を見張るほど変われど、その業は変わらない。矢張り女は人生で一度、必ず身を焦がすほどの恋に落ちるのだと、重ねて思わされる作品で、そして心海がたった今、この作品に登場する女達と同じ思いでいるからだった。
幼い頃は恋愛なんて向こうからやって来るとばかり思っていた。格好のよい理想の男性が、輝く装飾品を身に付け、雪のように澄んだ白馬に股がり手を引いてくれるものだと。
しかし、現実はそうもいかないらしい。恋は美しいもの、楽しいものだと言いって広めたのは何処のどいつか。 心海はそんな夢物語を言って聞かせた張本人を捕まえ、一 発ドカンと言い放ってやりたい気持ちで居た。
何も書いていない白紙のページに、シャープペンでさらりと想い人の名前を書けば、また音をたてて椅子の背もたれにもたれかかる。これを一日に何度も何度も繰り返し、何度も何度も同じ本を読み続け、彼に想い馳せるのだ。心海に唯一出来るのは、こんなことぐらいだった。
暫くして、今日何度目かの"恋文"を読み終えふと、少しでもこのぽっかりと空いた寂しさを埋めようと空を見上げた。
心海の部屋は丁度角部屋で幸運にも窓が二つ、東側と南側についている。南側から見える星空は心なしか東側の窓から覗く星々より一層綺麗に、明るく見え、沈んだ気持ちを立たせるのには十分だった。
星は好きだ。いつまでも変わらない星が好き。人は死んだら、星になると信じていた。それと同時に、いつか理科の先生から聞いた、「皆が見ている星は、もう宇宙には無いかもしれない。遠い昔に存在した星を空がスクリーンのように写し出しているだけなんだ」という話を思いだし、悲しい気持ちにもなる。
折角広大な宇宙から見つけ出したというのに、もうそれは存在していない、同じ時を歩めないという決定的事実が、今の心海には死刑宣告より重く涙を誘うからだ。
「星が、綺麗ですね」
心海は再び、織田作之助と書かれた本に視線を戻した。
【星が綺麗ですね＝貴方はこの想いを知らないでしょう】
貴方は太陽のようですね/短編/二代目北斎→←百花繚乱、ちるぬるを。/ページ2/Patricia
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水素化リチウム＠元.えーた。指示薬love(プロフ) - お煎餅さん» ありがとうございます。次号も頑張らせて頂きます (2017年12月4日 16時) (
レス) id: 7f312343b0 (このIDを非表示/違反報告)
お煎餅 - 水素化リチウムさんのお話切なくて好きです。次号も楽しみにしてますね。 (2017年12月4日 10時) (レス) id: 22c60aa3a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：文芸部 x他5人 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年11月19日 7時
